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その頃俺は、音楽院で知り合った彼女とペアを組んで地方巡業と称してチャリティコンサートやイベントを梯子していた。半ば強引に付き合わされたわけだが、休暇中は皆故郷に帰ったりしていたから、どうやって休みを過ごすか思案していた俺はなんとなく承諾してしまった。 彼女・カガリも俺もまだ駆け出しの学院生で、将来は音楽家になりたい、と無邪気に言い合っていた。 カガリは声楽を、俺はピアノで。 彼女の歌は未熟だけど、ダイナミックで伸びのあるいい声をしていた。俺の機械的なピアノに負けない力があって、喜怒哀楽の激しい奴だったのを覚えている。 いろいろ失敗も多かったけれど、夏季休暇の終わりがけには、カガリのことを皆も認めてくれて少なからずファンもできたと思う。 「えっ、野外ホールでコンサート?」 「そっ! 駄目元で申し込んでおいたんだ」 「駄目元って・・・」 「だから、お前も何か弾けよ!」 夏が終わる前の一週間連続で開催される、教授と学院生によるチャリティコンサートがある。出演者は応募により決まるが多数の場合は教授推薦による抽選となるのだ。競争ばかりしている学院生にとって、練習室取り合戦が始まる前の一種のお祭り期間。 「それでさ、アスラン。私、アレ歌いたいんだ!」 カガリが歌ってみたいといったのは「私のお父さん」。オペラのアリアでコンサートなどでもよく歌われている定番の曲である。 「大丈夫か? 結構きついと思うぞ。野外だし」 「それは分かっている。だけど、何事も挑戦だろ?」 定番なだけあって、伝統的なオペラ唱法で歌うその曲は、今までカガリが歌ってきた歌い方とは違っていて、発音からして実は別物だ。無論、彼女だって歌い手だ、歌えないわけじゃないが、耳のうるさい人達の前で披露できるほど物にできているかとなると?なのだ。なんせ高音域をパッサージュで自由に歌えなければならない。 彼女とアレンジを打ち合わせている最中、知り合いだという男がやってきた。 俺達はあと一ヶ月を切ったコンサートを前にして、うまく歌えない箇所について話し合っていた。曲の良さを考えるとどうしても譲れない部分で、これ以上編曲するわけにもいかず二人して打開策を探していた。 「やっぱり練習しかないよな。そうだ、練習だ!」 「後一ヶ月しかないぞ」 それでも、ぐっと拳を握り締めて前に突き出して付き合えと喚く彼女はロック歌手にでもなったら一躍スターになるのではないだろうか。 「じゃ、『イ』から始めようか。カガリ、姿勢注意して」 練習するしかないな。と落ち着いたところで、昔ピアノをやっていたというその男が、何気なしに彼女の伴奏をしてもいいかと言う。 「ごめん。ちょっとカガリ借りてもいい?」 「あっ、ああ」 「なんだ、キラ邪魔するなよ」 悪気やたくらみが合ったとは思えない。生き抜きも必要だし、彼女とキラという奴は随分と親しそうだったから、俺も、気にせず席を譲った。簡単な打ち合わせをして声合わせを始めた彼女。 「どうだ、アスラン? 結局何時もの感じだけどな!」 「うーん、だがベルカントは避けて通れない道だし、ここにいる内に覚えたほうが・・・」 「まあまあ、試しに一回歌ってみてよ」 その音色を聴いて。彼女の歌を聴いて、驚いたのを覚えている。 歌い方に拘らず、大胆なアレンジで原曲は留めていなかったけれど、いきなり現れた男のほうが、ずっと彼女の声を引き出していた。 彼女は今まで見たことがないくらい気持ちよく歌っていた。 「やっぱり、お前に弾いてもらうと歌いやすいな!」 「カガリにはこっちの方がいいよ。無理にオペラっぽくしなくてもさ。君もそう思わない?」 曖昧に笑って、そうだなとか、その方がいいよとか、言って肯定した。 「お前のほうこそ、ちゃんと準備しているのか?」 「あー、俺は弾かないよ。替わって貰ったんだ」 俺はこの時ほど、同期の奴に出番を譲って正解だったと思ったことはない。 一週間後、彼のアレンジによる彼女のコンサートは大喝采で終わる。 「一時はどうなることかと思ったけど、何とかなったなっ!」 「すごく良かったよ、声出てた」 コンサートには例の彼女の知り合いって奴やその友人とやらも来ていて、抱き合って喜んでいた。 「僕の言う通りやれば大丈夫だって言ったでしょ」 「今夜はお祝いですわね」 彼の連れは有名な歌手でラクス・クライン。そして俺は、アレンジを変えてカガリの力を引き出した男が今話題の新星、指揮者のキラ・ヤマトだと知った。 「君もカガリの伴奏お疲れ様」 「アスラン。ありがとうな、今度はお前のピアノも聞かせろよ」 「何言ってんのさ。君の歌声の前に霞んじゃうんじゃない!?」 笑いあう三人に混じる気になれない。 悪気があったわけじゃないという事は百も承知だ。 けれど俺は、一週間と立たないうちに彼女にペア解消を申し出た。自分のことより彼女に申し訳なかったのだ。俺と違って、彼女はこの先経験を積んで上手くなるだろう。未熟な唱法も今後練習して身に着けるだろう。持ち前の明るさや前向きな性格がどんどん表現力に繋がっていたから。 それが俺はどうだ? 誰か一人でも今まで、俺のピアノを聴いていた奴がいたか? 俺のピアノに感動した奴なんていたか? これが俺の限界だった。 後でその男が彼女の兄だと知っても決断は変わらなかった。指揮者は人を見る目がある、おそらくは俺よりはずっと。 つまりはそう言う事だ。 主席だと持て囃されただけで、本当は才能などなかったのだ。 ただ、弾いているだけのどこにでもいる人間だったのだ。 その年の秋、俺は音楽院を卒業して、何処の楽団にも属さず、音楽祭にも出ずに故郷に帰った。競争相手がいなくなることに歓迎することはあっても、引き止める奴などいなくて、見送りに来たのもカガリと、あの兄だけで。 「お前・・・連絡くらい寄こせよ」 カガリが泣きながら言うのには正直驚いたし、少し嬉しかった。 別れ際、彼女の兄が荷物を運ぶと言ってゲートの手前まで並んで歩く。 「だから、君のピアノを誰も聴けないんだよ」 「は?」 何が、『だから』と言うんだ。 「まじめにやる気あるの? そんな音で誰が聴くのさ」 俺は相手の顔をまじまじと見つめ、そして睨みつけた。 お前に何が分かる! 「どうせ俺は伴奏するのが精一杯の人間さっ」 「・・・その程度で・・・ピアニストを名乗るのやめてよね」 言い合いを止めに来たカガリを見て、俺は慌てて荷物を引っ手繰ると、逃げるように出国ゲートに向かった。 家出同然で飛び出した俺が事業を営む父の元に帰れるはずもなく、生活するために仕方なく弾き始めたのがミネルバ。 ここで俺は随分と救われたと思う。 ここでは誰も俺のピアノを聴いていない。ただ、空間を壊さないだけの音の羅列。客が全く聴いてなくも俺はピアノを弾くことで給料が貰えたのだ。 それから一年半。 カガリの兄というキラが、なぜ。 「離してくれないか」 「そうだね」 正午前のスカイラウンジには、いつの間にか下界の音が届くようになっていた。港の汽笛、遠く聞こえるサイレン。 「探したんだ。あの後、カガリに僕すごく怒られちゃって」 そんなことを今更なぜ? 「どこにも君の名前がないから、こんなに時間がかかってしまった。君のお父さんの会社まで社員にいるんじゃないかって調べちゃったよ。それが、まさか・・・ね・・・」 彼が窓の外を見る。 ここはミネルバ。88階にある最上階スカイラウンジ。 見渡す視界に遮蔽物はなく、果てしなく続く水平線と地平線の交わる先を望める場所。夜は夜空と地上の星の間に浮かぶ別空間となる。 「どうして無名のままステージに出てるの。しかも給仕係までして」 「ピアノは止めたんだ」 「でも、今は弾いていたじゃない」 なぜ、今頃になってこの男は現れたのだろう。 ピアノは食費を稼ぐためで、来年からは、生活費兼学費に変わる予定だ。 「本当はあの時のことを『ちょっと言い過ぎだった』って誤った後、すぐ帰るつもりだったんだけど、気が変わった、かな」 彼が下界から視線を戻して、再びピアノの前に座る俺を見る。 紫の双眸は相変わらず真意が読めなくて、彼と俺の差を認識させた。あの時、期待の新星だった指揮者は、今はもう立派な指揮者になって活躍しているのだろう。そんな、プロとしての威厳、オーラのようなものが感じられた。 「オケの公演でピアノを頼んでいた人が調子悪くてさ、君、替わりに出てよ」 何を・・・言っているんだ・・・? オケ? 公演? 「そんなこと、できるわけがないだろう!」 「僕って、意外と完璧主義者だからね」 ピアノのフロントカバーに肘を突いて、再び手を掴もうと手を伸ばしてきた。反射的に身体を引いて避けたが、彼は目を細めて薄い笑みを浮かべた。 「もう決めたんだ」 「いい加減に・・・っ!」 「間に合った―――っ!」 なんとも軽いタッチで飛び込んできたのは店長だった。張り詰めた空間はまるでコンサート前の静まり返ったホールのようだったのに、途端に午後のけだるい空気が雪崩込んできた。 「店長・・・」 「あれ、誰、君?」 トライン店長がピアノの横に立って屈み込んだ青年を目に止めた。 「また来るからさ」 颯爽と去っていく青年の背中を二人して見送っていると、入れ替わりに頼んでいた調律士がやって来た。俺達がデパ地下のお弁当を食べている前で、早速作業を始める。 「うわ、これ・・・相当ひっどいですね。アクション、ボロボロだ」 戻る 次へ アスラン回想編その1です。キラ様はほら、身内に100%甘い人ですから、身内意外には100%厳しい人ですから・・・。ピアノコンチェルトどれがいいかのう
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管理人の日記/2008年06月15日/アイス☆マン #blognavi
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Level 23 国の行事には必ず出席し、国民や王都の姿をその目に納めていた第1107エターナル王の最後は、あっけないものだった。 「おとーさまあぁぁ――――――っ!!」 逝去の瞬間、王女が泣き叫んで崩れ落ちた。 ズラリと取り囲んだ議会高官や神官達も一様に頭を垂れ、そして非情にも王女カガリへと向き直って告げる。貴方が次の王だと。 そうして、自動的に第一子にして唯一の子供であるカガリへと王位が移った。 だが、正式にエターナル王として即位する為には数々の儀式を踏まなければならず、その中の最たるものが、君主の杖の継承だった。 君主の杖を携えてドラゴンズピークへ出向き、ゴールドドラゴンに騎乗して戻ってくるのだ。王としてその力を広く遍く知らしめる為に。 ドラゴンズピークには数十体とゴールドドラゴン達が住み着いていて、頂上にいる長の下に統率されている。彼らは全て、これから会う長の子孫達だ。 金の鱗と金の目をした竜に負けじと、金の髪となびかせ、金の瞳で睨み返して新女王がドラゴンズピークを登る。 新王カガリが頂にある竜の門を潜る。ゴールドドラゴンに認められて初めて、エターナル王と言えるのだ。 不安と恐怖に震える心を奮い立たせる為に手に光り輝く金の杖を握り締める。 「志は私が引き継ぎます・・・お父様・・・」 門をくぐり、霧で覆われた通路の先に見えた巨大な鉄の扉。 中央に大きく掘り込まれた金のレリーフはエターナルの紋章。 その門がカガリが触れる前にゆっくりと開く。 軽く息を吸い込む新王を待っていたのは意外な姿で。 「お、お前はっ!?」 仄かな恋心を寄せていた王国最強のメイジ・キラ。執政に影のように寄り添う彼がどうしてここにと、カガリの思考が混乱する。口を開きかけては、パクパクと空気だけを食む。 そんな彼女の様子に苦笑して、カガリの目の前の存在が視線を逸らした先には。 「紹介するよ。君は初めて会うことになる」 たおやかな微笑を湛え、ピンク色の長い髪を揺らしている女性がゆっくりと歩いてくる。 「ラクス。エターナルの新しい王、カガリだ」 「始めまして。ラクス・クラインですわ」 ゴールドドラゴンと共に悪を打ち倒し、エターナル王国を打ち立てた伝説の乙女。 初代女王。その女性が目の前にいる。 「・・・ラクス・クライン様・・・っ!」 夢や幻かしなのではない。王国が興る時に在った女性がなぜ、ここに。 確かに肖像画や言い伝えどおりの姿をしているが。 カガリはしばし呆然とし、はっとして最高礼を取った。 「お願いがあるのですわ」 カガリがそろそろと顔を上げる。 笑みを浮かべたままの顔で、興国の女王が言う。 「その杖、渡してくださいな」 杖を両手で握り締めたまま、新女王が息を呑む。 「取り上げるのか?」 「杖で無理やり竜を跪かせて何になりましょう。力ずくで国を支配し、竜を支配して、それで満足ですか? 私は貴方のお父様にも、そのお父様にも同じ事を問いましたが、皆、貴方と同じ答えでした。もう一度言います。もうその杖に頼るのはお止めなさい」 「それはできない」 カガリが小さな声で伝える。私にはこれが必要だ、と。 議会と戦う為に、国の為に、国民の為に。だから、これを私から取り上げないでくれ。彼らの魔法に対抗するにはゴールドドラゴンの力が必要なんだ。そう、訴える。 「杖の力を使って、ゴールドドラゴン達に戦いをさせる気なのですか?」 「ラクス。別にそれはいいんだ。それが僕達の選んだ道なのかも知れないから」 「でも、キラ!」 そう、初代女王の横に平然と立つこの男はキラだった。 「一体、何者なんだ。なぜドラゴンズピークの頂にいる?」 「君は、もう分かっていると思うけど?」 キラは他でもない、ゴールドドラゴンなのだと。 「でも! ならどうして、執政の下で働いている!? どうしてエターナルの為に動かないっ! そのためにお父様は・・・」 涙を散らして新女王が叫ぶが、ゴールドドラゴンは答えない。 その昔、ゴールドドラゴンと共に悪の竜を倒した女性が打ち立てた王国エターナルは、竜に守護される国と言われている。君主の杖はドラゴン達の忠誠の証として送られたと。 それが、本当はどうだろう。 ゴールドドラゴンの加護など、どこにあると言うのだ。ただ、杖の力で無理やり彼らを従えているだけ。貴族達がメイジの力で国民を力ずくで支配しているのと何も変わらない。 それが、この王国エターナルの真実。 「私は諦めない。今はまだドラゴンの力に頼らなきゃ何もできないけれど、いつかお父様が目指された、皆が平等に暮らせる国を作って見せる」 そう言って、カガリは君主の杖を高く翳した。 杖の先の宝珠が金色に光り輝いて、新女王はゴールドドラゴンに王宮まで送れと命じた。 文字通りゴールドドラゴンの背に乗って王宮に舞い戻った新女王。歓喜に包まれて臣下が女王を取り囲む。王宮へ下がろうとする女王を臣下が一人、執政が待ち構えていた。 「何か恐ろしいものでも見られましたか、女王?」 執政の後に控えるキラを盗み見て、硬い表情のままカガリ女王が侍女に囲まれて王宮に消える。程なくして開かれた議会で、女王が先王と同じ法案を議会に提出すると宣言する。 その年、カガリ女王の即位と同時に、議会と女王との亀裂が決定的になる。 Level 24 「ここが杖のある所・・・?」 シンは小高い丘の麓で、辺りを見回した。 鬱蒼と茂った森、深い渓谷とか怪しげな古城など、迷宮になりそうなものが何もない。 「なんだか、のどか~って感じですよね」 「ダンジョンなんてどこにもないし」 「シンの目の前にあるぞ」 そう言うアスランが見上げる先には、青空とそこに続くなだらかな丘があるのみ。 まさか、この丘全体が? 杖は掘り当てるのかっ!? 「入り口は結界に隠されている。違いますか?」 シンは声のした方を振り返れば、アスランの横にワイバーンに乗った金髪のエルフがいた。事も無げにワイバーンから飛び降りて、丘を前に立ちすくむシン達に近づく。 「レイっ!?」 「あっ・・・俺たち・・・」 廃城からこちら、レイのことをすっかり失念していたシンとルナマリア。 大怪我したシンの事でそれ所ではなかったし、レイは杖を狙う盗賊ギルド側だから一々報告する義務はないのだが、何か気まずい気がする。 「気にするな。俺は気にしていない」 「うっ」 レイに先手を打たれて謝ることもできなくなってしまい、シンはもやもやしたものを抱えたまま口篭もる。 「おまえ達に事情があるように、俺にも事情がある。それだけだ」 「まだ杖を、狙っているのか・・・?」 「女王や、執政に渡すよりは」 ただでさえ君主の杖でゴールドドラゴンを操る国王は巨大な力を持つのだ、さらに杖を手に入れて、手がつけられなくなったら困る。まして、国王と反目する執政側が杖を手に入れて王国が内乱に発展にするのも宜しくない。 権力を持つ者が、過ぎた力を持つことほど厄介なものはない。 レイが彼の主であるギルドマスターの言葉を借りて説明する。 「その点、お前は安全だ。ただの盗賊だからな」 ちょっと、その言い方は傷つくよ。 シンはムッとして、「そうだよねえ」と笑うルナマリアやメイリンを見る。アスランまで苦笑しているではないか。 「どうせ、俺はただのこそ泥だよ!」 「だからだ、シン。君は人が生きていくのに、本当に必要なものが何かを知っている」 シンの肩に手を置き、誉めているのか疑わしい言葉でアスランが慰める。 本当に必要なもの? 「俺は最初、君がドラゴンの瞳を手に入れられるなんて思ってなかったんだ。またギルドに騙されたかわいそうな盗賊がやってきたなあと思って。それが、見事リトルレッドドラゴンを倒して、あのキラとやりあうなんて信じられなかった」 ああ、どうせ、そんなことだろうと思ったよ。 この人は俺のことをまるで何も知らない子供を見る目で見る。 「今は、そうだな、シンなら杖を渡してもいいかって思う」 それが今は。 まるで自分が杖の持ち主みたいに、そんなことを。諦めた夢を託すように言って。 「忘れないで欲しい。ジュールの杖を手に入れても、力に飲み込まれるな」 それが、今、アスランから託された杖の名前。 恐ろしい呪いと引き換えに力を約束してくれる、その杖の名は、ジュールの杖。 心地よくて、不思議と懐かしい彼の声が頭の中にストンと落ちて、一瞬、シンはこの場にはアスランと二人だけしかいないような気になっていた。 トリップしてしまったシンを横目にレイが姉妹に声をかける。 「ルナマリア、メイリン、力を貸してくれ。丘の入り口を出現させる」 「えっ? あっ、分かったわ」 シンがアスランに忠告めいたことを言われている後で、3人がかりで、隠蔽されている丘本来の姿を解除するリリースの魔法をかける。何の変哲もない丘の周囲には崩れ落ちた石垣を出現し、その一角に僅かに門らしき跡があった。 続く うむ。取り留めのないつなぎの話ばかりで、まとまりがありませぬ。本当は、「次回、D D 『嘱望』 王位の継承の為に訪れたドラゴンズピークでカガリ王女は王国の真の姿を知る!?」みたいな引きから、今回のお話に繋がるはずだったのに。そんな感じになってませんよねえ。元々、継承の話の一部だったからかなあ・・・精進。精進。
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勝利者などいない 監視官は屋上に留まって、今回の一網打尽作戦の報告を聞いていた。 「あと1時間でレジスタンス組織アジトへの突入準備が整います、現場へ行かれますか? ヤマト殿」 「遠慮するよ。それより、あのキーホルダー知らないかな」 殿上人の監視官と会話がかみ合わないのはいつものとおりと、報告をした下士官は、首をかしげた。アークエンジェルに乗る監視官はその中でも特別、話が合わないと聞こえた、スーパーコーディネーター。しかし、次の一声は、また一層脈絡のない、とんでもない命令だった。 「厳戒令敷くよ」 過去の情景に気を取られていた一瞬に、相当落下していた。 あまりの迂闊さに、地表を感じてワイヤーを飛ばす。振り子のように隣のビルの窓ガラスに突っ込んだ。ガラスが突き刺さる衝撃と床を転がる衝撃がない交ぜになって、思わず呻き声が出る。 こんな所でプラント送りなんて冗談じゃない! コーディネーター専用の監獄。そこで待ち受けるのは普通の人間ではできない危険な仕事や重労働、人体実験。武装警官が押し寄せる中、シンは必死に脱出の方法を考えていた。勿論、相手にコーディネーターがいるのを前提だ。 夜目が利く。動きも動体視力も同じだとして。 多勢に無勢だ、ちくしょう! 地の利を生かせるとしても数で迫られればひとたまりもない。階段を上がり、隣のビルに飛び移り、そのビルも包囲されていることに気がつく。すぐ下の階にまで武装警官が来ている。 辺り一体はすでに封鎖済みかよ! 思わず息を呑む瞬間。 「こっちだ」 手を引かれて、振りほどこうとして、できなかった。 「あんたっ、ア!」 すぐに口に指で口止めされた。 シーッ・・・ エレベータシャフトを下る二人は、地下何階かも分からない場所から昔の廃水路 を辿って地上に出た。 終始無言だったシンが口を開けたのは、ドアを閉めてから。 既に日は昇り、上空を引っ切り無しにヘリが飛び、サイレンがどこかでなっているいつもより騒がしい朝。 場所はかつてヤキソバをご馳走になった一部屋。 シンを助けたのはアレックスだった。 「どういうことだよ!」 「どうって、君を助けただけだ」 「どうして助けたのかって聞いているんだ」 玄関先で怒鳴りあう、と言っても一方的にシンが怒鳴っているだけである。 「ここじゃなんだし、まず上がって、それからシャワーを浴びよう。ひどい臭いだ」 うわっ、すげー臭い。ってそうじゃねーだろ、俺! 「二人同時は無理だからな、お前先に使っていいぞ、シン」 「あっ、ハイ」 だから、ハイってなんだよ、ハイって。 今はそんなことしている場合じゃない。ルナ達がどうなったか、この騒がしさはなんなのか、どうして俺は助かったのか、シンは今考えるべきことを列挙してみた。 「じゃない!」 振り向いたアレックスが呆れた視線で振り向いた。彼の手が挙がる先にテレビがあって、電源が入る。コーディネーターの耳にはその微かな高周波さえ捕らえることができてしまう。 だから、シンには、テレビのアナウンサーが言っていることが分からないはずがなかった。 『これは、本日未明に実施された東地区レジスタンス一斉逮捕の現場です』 『ここ一ヶ月頻発していた襲撃事件のほとんどに絡むと見られており、これからの事態究明が急がれます』 勝手に体が動いていて、モニタの前でその映像を見ていた。 シンには見知った建物で、窓からは白い煙があがっている。突入する部隊。銃撃戦。映像は何度も切り替わり、最後に投降してきたレジスタンスが映る。 「ヨウラン! ヴィーノ!!」 「知り合いか。これで分かっただろ。今はシャワーを浴びて、まず休め」 お湯のはずのシャワーがちっとも温かく感じられなかった。 彼らのことを考えて、壁を叩く。 地下をさ迷っているうちに、事態は大きく動いてしまっていた。 濡れた髪をそのままに、部屋の住人の前に出れば、彼がタオルを投げて寄越す。突然だったから、洗いざらしのタオルがシンの顔面に激突する。 「ちゃんと拭け、それから、冷蔵庫にあるもの食べていいから。助けに行こうとか考えるなよ」 アレックスがシャワールームに消えてすぐ、テレビでは街に厳戒令が敷かれたことを伝えていた。街に溢れるMPが映し出され、街の住人が取調べを受けている。 映像が切り替わって、シンは髪を拭く手が止まった。住人の消えた東ブロックは終戦直後のように瓦礫の山と化していたのだった。 「そんな・・・」 呟きと共に力なく手が下がる。 喫茶店、学校、全てが瓦礫の下だった。鍋ややかんを修理するじいさんは、荷物運びをする少年達はどこへ行ったんだ。 『東ブロック再開発プロジェクトの開始に伴い、今後は一層の治安悪化が懸念されることから、当局は各ブロックの警備強化を打ち出すことを発表』 「ローラー作戦でもする気かな、監視官達は」 Tシャツにジーパンのアレックスが、自分は半乾きの髪のまま現れた。冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出す。シンはただ彼の動きを目で追い、耳は朝のニュースを聞いている。 「居場所。どうして分かったんだ?」 「そのキーホルダーには、居場所探知機能があるんだ」 「は?」 ニュースと2重音声だから、シンの応答は短い。 「家出常習犯のペット用だから」 そんなものを渡されていたという事実と繰り返される投降の瞬間。 テレビでそのシーンを繰り返し眺めているシン。 「どうして」 「なんだか、放って置けなかったんだよ」 前回、ちょっと長かったので、今回ちょろっとです。
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#blognavi 初・海草パック体験、フランス産の海草だってさ。終わった後、手が物凄く昆布くさくなりました。 あっという間に、休みも後1日。2日から毎日出ずっぱりで、結構買い物したなあ、と。 メモ...φ ウルリッヒ=ウェゲナー(1929-) GSG9創設者 ブランデンブルク州ユーターボーク生まれ、空軍在籍中に終戦 1950年東で反体制ビラをまいて1年投獄、1952年、西へ移動 西独軍の幹部候補生に 彼と親交があったとか?しかし存命中な上、フェイスブックやってる 上司はほったらかしだったので、一般人の生活費しか出ず、必要経費は自腹。 東の人民警察の第9中隊の隊員としてか、シュタージのAGM/Sのグループメンバーか、そいつに情報を流す役かで。 最も、普段はヒューミントによる情報収集だけど、情報を売って生活する。 マルクス=ヴォルフ(1923-2006) シュタージの対外諜報部門長 ミーシャ バーデン=ヴュルテンベルク州、ヘッヒンゲン生まれ!ホーエンツォレルン城がある街・・・ ユダヤ迫害でソ連亡命、ソ連で教育を受け対独として戦後ドイツに送り込まれる いろいろあって、シュタージの長に、1979年に容貌が西側にばれる 統一後はオーストリア行ったりアメリカ行こうとしたが、晩年はベルリン在住で没 カテゴリ [つれづれ] - trackback- 2013年01月05日 21 15 53 #blognavi
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管理人の日記/2007年09月04日/初めての 管理人の日記/2007年09月04日/ちょっと思いついたんですが #blognavi
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王女と王子と種石 「シン・・・まさか本当に・・・?」 「あっ、いや、だから!」 シンは両手を振るが、違うと否定はできない。残念ながらうまく言い訳したり、誤魔化すことができるような歳ではなかった。本人の狼狽振りから誰もが、そうなのだと・・・シンがプラント皇帝の息子なのだと言うことを証明していた。 「ターミナルがどこにあったのかも知らない子供が、シン・アスカ・プラント・・・」 シンは動転していて、アレックスの扱いがガキから子供にレベルアップしていることに気がつかない。ただの少年と王子のギャップを比較して、シンにフィットした方は何処にでもいる少年の方だったのだ。シンが衛兵に対して騒いだ時も皇帝の息子だとは微塵も思わなかった3人。 「王子様って世間知らずなのねえ」 「それだけ大切にされてきたってことさ」 バルトフェルト侯が締めくくると、キラがアレックスに向き直る。 「君、大丈夫?」 「何が・・・」 「だって、色々失礼な事言ったじゃない? ガキとか、トロいとか」 「あーー」 と頷いたのはミーアだった。やや遅れてアレックスが数々の不敬を思い出したようだ。いくら、自由人の空賊とて、帝国の王子相手に『このガキ』はまずいだろう。 「そっ、そうだな」 明後日の方を向くアレックス。ミーアはミーアで指折り失礼な言動を数えている。 シンは慌てふためくアレックスが見たかったのだろうかと、空賊の二人を見て思う。オーバーなリアクションを期待していたわけではない。けれど、少しも劇的でない展開に自分の名の重さをいぶかしむ。 「そういう将軍だっていいのか? 憎き仇国の王子だぞ、チャンスじゃないか」 「怖い事、しれっと言わないでよ。今、どうこうするつもりはないし、殿下だって分かっている。もう帰るでしょ、侯にばれてしまったのだから」 ね? 確認するキラにシンは自然と口をついて出ていた。 「俺、ステラをアプリリウスまで送っていくから! アウルやスティング達の所に早く帰りたいよな?」 「シン?」 1人ステラだけが相変わらず話しについていけず、突然話しかけられてびっくりしている。シンは深く追求されても困るし、事実、問い詰められても困る。兄達や父は帝国の中枢で政治を動かしているがシン自身は何の権限もない子供なのだ。 難しいことは分からないし、知りもしない。 アレックスとキラの言うアプリル復興にしたって、それが帝国にとって好ましくないこと。程度の認識なのだ。自分が王子である。そのことにほとんど意味がないような気がして、シンはこれ以上この話題を続けたくなかった。 「セイバートリィにだって乗りたいよな!」 「送るのは、俺なんだか。シン、殿下」 強引に飛空挺を持ち出せば、アレックスが一呼吸入れて言う。 聞き慣れないフレーズに自然と眉を寄せていた。 「何だよ。急に止めてくれよ気持ち悪い。・・・シンでいい」 「しかし、ですね」 この場にはバルトフェルト侯もいる。滅多な事は言えないのは分かるが、ひどく嫌だったのだ。彼から『殿下』と呼ばれる、その他人行儀さが。 「今更だろ。俺だって、その、丁寧な言葉とか疲れるし・・・」 そうなのだ、王子として扱われるということは、シン自らもそのように振舞わなければならないのだ。生まれた時から上に立つ者のオーラを放っていたのではないか疑わしい兄達とは違って、シンはそれを堅苦しいと思っていた。 できれば皆からも、自分も、今まで通りがいい。 帝国の王子としては失格かもしれない・・・どうするべきなのか咄嗟に判断できずにいると。 「そうだな! お前がそう言ってくれて助かったよ。今更、プラントの王子として接するなんて無理だし、ああ、気が楽になった」 「そんなあからさまに安心しなくてもいいじゃない」 シンは肩の力を抜いて、胸を撫で下ろしているアレックスとミーアを見る。同じように二人を見ていたキラと目が合って思わず苦笑してしまった。そして、急に表情を引き締める元将軍を見て、本当は彼がバルトフェルト侯に会いたがっていたのを思い出す。 「では、本題に入ろうか」 気づいていたのはシンだけではなかったようだ。向き直ったバルトフェルト侯は鋭い眼光をキラに向けていた。この一言で部屋の空気が1・2度下がる。 「バルトフェルト侯にお伺いしたことがあるのですが」 キラも負けてはいない。 伺いたいこと・・・滅びた王国で最後まで抵抗を試みた将軍が問いかけることなど一つしかない。囁かれている噂の真相。 「アプリル復興レジスタンスに協力しているという話は、本当ですか?」 この場にシンがいるにもかかわらずキラは口を開いた。 狐か狸かと問われればおそらく狸だ。 明確な答えを出さず、しかし確かに助力をほのめかした壮年の男。どこか一番上の兄に通じるものを感じつつ、シンは空中都市に横付けしている帝国軍の艦隊を見る。 プラント帝国軍第8艦隊。 司令官はフェイスマスター・ディアッカ。 侯爵の館で明かした一夜の内に出現した艦隊を指して、バルトフェルト侯はシンに『すまないね』と笑う。侯爵はシンの存在を帝国に通報し、朝からこの騒ぎとなったのだ。シン1人を連れ戻すために一個艦隊が空中都市にやって来た。 「それだけでもないがね」 王子1人の護衛。最もな理由だが、帝国にもレジスタンスにも繋がっている侯はキラに向かって告げる。 「ある重要人物を護送しているという話だ。何でも・・・レジスタンスの首謀者らしいが、なぜ帝都からアプリリウスに送り返すのだろうねえ」 レジスタンスの首謀者と聞かされて真っ先に思い浮かぶのはピンク色の髪の女。 「その人物を助け出せと?」 「おや。彼女の居場所を聞き出すのが君の目的じゃなかったのかな? ヤマト将軍」 侯爵とキラのやり取りをシンはアレックスやミーアと一緒に見ていた。 「そうおっしゃるからには、手助けして頂けるのですね」 「まさか。私はヤマト将軍を名乗るレジスタンスを捕らえたと帝国に引き渡すだけさ」 キラが目を瞠り、アレックスが笑った。 ミーアが天井を見上げてため息をついてシンを見るから、首を傾げた。 「飛空戦艦に送ってやるから、後は自分でなんとかしろって事よ」 ミーアの分かりやすい説明に、バルトフェルト侯が笑う。 窓から見える第8艦隊、飛空戦艦の中でレジスタンスの首謀者を探して脱出する。そんな危険な事を侯はキラにあっさり振った。 「そんなの1人じゃ無理に決まってるじゃん」 飛空戦艦は帝国の軍艦なのだ。中には山のように帝国軍が詰まっている。牢獄だって簡単に突破できるとは思えない。帰りはどうするのだ、脱出は。帝国軍の飛空挺を奪って逃げるのか? 「あれ、僕1人で行くわけじゃないけど?」 「は?」 「その子を助けるのに僕は協力したのにね、さすが、帝国の王子様は恩知らずで薄情だ」 今度はアレックスとミーアが笑う。 「おい、連れて行くつもりなのか? 世間知らずのお子様じゃ足手まといだろう」 「アンタだって一緒に行くんですからね! 逃げる時、飛空挺を誰が動かすんですか!」 アレックスがピタリと笑うのを止めて何か言おうとした時、ステラがシンの服を引っ張っていた。結局、最後まで笑っていたのは侯爵だけだった。こうして、バルトフェルト侯の手引きで、いや突き出されて、帝国軍の飛空戦艦に行くことになった。 揃って営倉のあるフロアに連行された彼らは、3つの部屋に分けられて放り込まれる。ミーアとステラ、シンとアレックス、そしてキラ。 「お前、本当に王子なのか?」 詮索されずにさっさと営倉に入れられたシンをアレックスが申し訳なさそうに見る。帝国の王子なのに、何の疑いもなく一緒に投獄されてしまったシン。言葉に詰まるシンを横目にアレックスは早速扉に近寄って、ゴソゴソと手を動かし始めた。 「ミーア、そっちはどうだ?」 「・・・あと少し」 向かいの部屋に入れられたアレックスとミーアが牢破りを試みていた。シンはその様子を黙って見ているしかなかったが、空賊が割りとあっさりドアを開けてしまうのを見て帝国の技術力に不安を持った。 「うわ、開いた」 「驚いてないで、そっち瞠ってろ」 キラの部屋のドアが開いた時にはミーアもステラも通路に出てきていた。通報もされず、警報も鳴らずますますシンは不安になる。 こんなに簡単でいいのだろうか? 見張りの警備兵も気が付く気配がない。アレックスが苦笑してミーアと顔を見合わせる。これでは空賊に捕まったほうが余程厳重だと言うことなのだろう。 「弛んでるなあ、帝国軍も」 「この調子で、救出作戦もお願いしたいよ」 唯1人の見張り兵を倒して剣を奪ったキラが零す。 それはそれで大丈夫か、帝国!? とシンは思うのだが、それはこの際胸に留めて置くことにする。ステラの手を握って一行は重要人物が捕らえられているという最下層の営倉を目指した。 飛空戦艦の中はさすが最新鋭の帝国軍なだけあって、近代装備が満載されていた。それがゆえに人員が少な目なのが幸いしている。出会う帝国兵は少なく、各個撃破できない数ではなかった。 だが、それも最初のフロアーだけだった。 「あの、キリがないんですけど!」 「泣き言を言うな」 「本当にこのルートでいいんですかっ!?」 飛空挺なんざどれも造りは同じだと言って、アレックスがルート選択していた。地上と違ってここは空中で巨大な飛空戦艦の中である。同じ飛空挺乗りの空賊の勘を充てにしていたのだが、先程から同じ壁ばかり。 「警報が鳴らないだけましだと思えっ!」 「うわっ、もうやけくそだよ、彼」 空中とは思えない揺れのなさ、窓が一つもない巨大な建造物の中では地上も空中も何も変わらない。キラとシンが奪った剣を振り回し、アレックスが帝国兵から奪った銃で狙撃する。ミーアとステラが索敵し治療に当たる。 しかし、これでは肝心の最下層にたどり着くまでに力尽きてしまいそうだ。 少しずつ近づいて来てはいるのだろうが、さすがに中心部に近づいているだけあって警備も厳重になってきている。パトロールの帝国兵も増えてくる。 「どこかに最下層に繋がるシャフトがあるはずだ」 「どこかって、どこに!」 「だから、それを探しているんじゃないか」 キラが溜息を付き、ミーアが腕を組んだ。 「ってことは、また迷っているのね・・・」 「さて、どうする。シン?」 キラがステラと共に最後尾を走っていたシンに声を投げる。 「俺っ!?」 「何か知らない?」 と聞かれても、知らないものは答えようがない。 兄達なら答えられたかも知れない、悔しいけれどシンはまだ自分の艦隊を持たない子供だった。 「別に王子だからて、何でもかんでも知っているわけじゃないよ」 「黙ってっ!」 急にミーアがが静止して、目を閉じる。その時にはアレックスも周囲を伺っていてステラがぎゅっとシンの腕を掴む。ガチャガチャとなる鎧の音に幾つもの足音。通路の前と後ろに帝国兵がいて囲まれていた。 前方の帝国兵の一団を突破して通路の角を回る。背後から迫る帝国兵の攻撃がすぐ後ろの壁に炸裂する。稲妻が飛び散り、一瞬フラッシュに包まれたその攻撃。 「魔法攻撃!?」 「魔導士がいるのかっ!」 剣や銃を獲物にせず、魔法を持って攻撃をする彼らを総称して魔導士と呼ぶ。魔法を使う彼らは、当然軍においても重宝されている。背中に感じた熱が炎の魔法だと知って、血の気が引く。 こんなものどうやって防ぐんだよ!? ステラが目を瞑って必死に走っている。 ブロックを走り抜けてようやくシャフトにたどり着いた。しかし、シャフトの中から出てきたのは鎧の音を立てる帝国兵だった。後ろからも帝国兵が迫る。 「くそっ」 シン達は武器を手に臨戦態勢を取ったが、眼前の帝国兵は手を上げて鎧兜を取った。 見知らぬ顔だが、キラだけがその相手を知っていた。 「ダコスタっ!? どうしてここに」 「ヤマト将軍、貴方と同じようにバルトフェルト侯に頼み込みました」 浅黒い肌に赤毛の男が話しかける。キラと顔見知り・・・と言うより。キラと同じようにと言うことはアプリル復興レジスタンスの関係だろうか。帝国には珍しい肌の色に推測する。 「ぐずぐずしている時間はありません。早くシャフトの中にっ!」 雪崩れ込んできた帝国兵と間一髪でシャフトが下降し始める。 「君も彼女を助けに?」 「殿下は我らの希望です」 アレックスがシンを見るが、どうやら違う人物を指しているようだ。キラとダコスタと呼ばれた男の間では会話が成立しており、アレックスとミーアが二人を凝視している。今、彼が救い出そうとしているのはレジスタンスの首謀者とされる人物。 それをキラは彼女と呼び、相対する彼は彼女を殿下と呼んだ。 「彼はダコスタ。僕と同じアプリルの元軍人だよ」 キラが紹介するダコスタと言う男はシンとステラを一瞥してアレックスやミーアを見る。 彼から見たら実にまとまりのない集団だろう。シンとステラはまだ子供だし、アレックスは正体不明、ミーアは人間と一緒にいることがまずないキャンベラだ。 「ヤマト将軍、この者達は?」 「それって難しいなあ。何て言うべきだろうね」 キラがシン達を見回した所でシャフトのエレベータが止まる。 いよいよ最下層に到着したのだった。 営倉にたどり着いた彼らを待っていたのは、シンが思い浮かべた人物だった。 「また会ったな、アンタ」 「前にも言いました、アンタは止めて頂きたいですわ」 けれど、懐かしい挨拶を続ける前にダコスタが前に進み出て膝を折る。 「殿下、ご無事で何よりです。救出に参りました、すぐにここを出ましょう」 「ダコスタ、良くここまで」 「えっ、殿下って?」 シンがラクーナとダコスタを見比べていると、ダコスタがすっくと立ち上がって彼女を庇うように立つ。 「こちらはアプリルの、ラクス・クライン王女でありますよ」 ラクーナが王女。 王国の地下水脈であった女リーダーがなんとアプリルの王女。 あれ? とシンは頭をひねる。 「おいおい、ラクス王女は自害したんじゃなかったのか」 疑問を口にしたのはアレックスだった。そう、アプリル陥落の際に国王は殺害され、王女は自害したと伝えられている。それを発表したのは何を隠そうバルトフェルト侯だったはずだ。 「僕だって死んでいた事になっていたけれど、こうして生きている。王女が生きていても不思議はないんじゃない?」 「そういう問題じゃないだろ」 「そうか、プラントの王子とアプリルの王女が揃っちゃったのね」 びくっとしたのはレジスタンスの女リーダー改め、アプリルの王女ラクス・クライン。 当たり前だ、プラントの王子と聞いて平常心でいろというのは無理な話である。国を滅ぼした敵国の王子。それはダコスタも同じでにわかに最下層の営倉の通路に緊張感が走る。 そして、長いピンクの髪をしたラクーナがダコスタの背後にいる人物に目を留める。 「貴方は、ヤマト将軍・・・?!」 「はい。彼も殿下の救出に」 ダコスタの言を聞いてか聞かずしてか、彼女は眉を寄せてキラを睨み付けた。 「よくわたくしの前に顔を出せたものですわ」 彼女はまだ2年前の王国陥落の真実を知らないのだ。だから、キラは彼女にとって父である国王を殺害し、国が滅びるきっかけを作った裏切り者だった。 「殿下のお気持ちはごもっともですが、今、そしてこれから彼の力は必要です」 「裏切り者の助けなど!」 「そういう言い方はないんじゃないか? 仮にも自分を助けに来た奴に向かって。君は2年前の全ての真実を知っているわけじゃないだろう?」 「たかが、空賊に何が分かるというのです」 意外な事に、真っ先に『そんな作り話を信じられるか』と言ったアレックスがラクスに抗議した。ダコスタが恐れ多いと言わんばかりの怒りの視線を彼に向けたが、アレックスは構わず続ける。王女や元将軍を前にして空賊の彼は少しも物怖じしていないようだった。 「今はそんな事を言っている場合じゃない。ここを出るのが先決だ」 「急いだ方がいいと思うわ。足音が集まりつつあるもの」 ともすればここで2年前の暴露大会が始まってしまいそうなのをシンも感じていた。本当は一刻の猶予もないのに、だ。ステラを鉱山で助け出し、ラクス王女を見つけ出した。もうここには用はない。 「そうだよ。早く行こうぜ!」 ステラを除けば、一番状況を分かっていなさそうなシンに催促されるラクス王女とダコスタ。その姿はあまり格好いいものではない。 「殿下、急ぎましょう」 ダコスタが先導して今度は飛空戦艦の甲板を目指した。 最下層の営倉を一歩出た途端、艦内に警報が鳴り響いた。 「どこから沸いて出るんだよ!」 「相手にするなっ! 走れっ」 一々相手にしていたら保たないのだ。 接敵しても逃げられるのなら逃げる。極力最小の抵抗でフロアーを上がる。勿論どうしてもルート上抜けなければならない所は戦うしかないが、キラとダコスタがラクスを守るために奮闘する。 「殿下、お下がりください!」 シンは二人を見て忠義と言うものをはじめて知った気がした。 そして、それが彼女に相応しいかも。ラクスは滅びたとは言え一国の王女で、今もなおアプリル復興の為に先頭に立っている。 「ダコスタ! 殿下を守れ。ここは僕が切り開く!」 もし、帝国と王国との間で戦闘になったら帝国兵達は身を挺して自分を守るだろうか? フェイス達は帝国と王子とではどちらに重きを置くだろうか。答えは分かっている。だからこそプラント帝国は大きくなり、アプリル王国は滅びたのだ。 じゃあ、目の前の光景は? なぜ、彼らは冷たい鎧に覆われた帝国兵と必死に戦っている? 「この先が飛空甲板です。飛空挺で脱出しましょう」 「頼むよ、アレックス。後は君次第だ」 「だと、いいがな」 アレックスが銃を構え、ミーアがステラの手を引いて走り出した飛空甲板までの通路。出口の先に飛空挺までのタラップが見えた。左右のポートの左側は上がっていたが、右側は下ろされていた。 一同はタラップの先の飛空挺を探す。 そこはもう飛空挺の外で、雲と霞んだ地平線が見えた。風が巻き込んで髪を舞い上げる。 しかし、誰もが息を呑んで急に立ち止まる。 タラップの先にいたのは独特の鎧を纏った帝国兵だった。フェイスのマントが翻り、鎧の擦れ合う音が風に乗って響いた。 フェイスマスター・ディアッカ。 「残念でした、ラクス王女」 「フェイス・ディアッカ」 後ろからも帝国兵が現れる。囲まれてしまったシン達はタラップの先に飛空挺はなく、流れる雲だけを見る。前にも後ろにも下がれない。 「お約束が違いますが。確か、王女は平和の為に『黄昏の種石』をお渡し下さるとご提案なさった」 種石。どこかで聞いた気が・・・シンはステラがびくりと震えたのを見て思い出した。 空中都市の鉱山でステラが呟いた言葉。 「研究所で作ってるって奴か?」 「分からない」 シンとステラが小声で会話しているのを聞きつけたのか、フェイスマスターが一歩踏み出す。 「そっちの紛い物じゃないくて、さ」 ディアッカが続ける。 「グレン王が世界を統一した時に神から授かったと謂われる種石のことさ。覇王の末裔に伝わっているのは周知の事実だろう。王家の証として受け継がれているはずだ。その神授の種石の在り処を我らに明かすことを条件に、こうしてアプリリウスへと向かっているはずでしたね? ラクス・クライン殿下」 一息で告げる内容は聞きなれない単語ばかり。 グレン王は、かつてこの大陸を一つに纏め上げた最初で最後の覇王。その時に神から授かった物があったなどと、シンは初めて耳にした。 まして、プラント帝国がそれを人工的に作ろうとしているなんて。 「貴方はアプリリウスの王宮に眠っていると言われた。女神像の宝石だと。おとなしく在り処をお伝え頂ければ、そっちのお仲間の命は見逃してやってもいい」 「種石を手に入れてどうするというのです。女神像の秘めた宝と呼ばれていますが、あれは唯の美しい宝石ですわ」 女神像の秘めた宝? その言葉に反応したものが二人いた。 シンと宝物庫で鉢合わせしたアレックス。 ザッと近づく帝国兵。 「バカ。シン、止めろっ!」 アレックスが止めるよりも早く、シンは懐から王宮の宝物庫から盗み出した石を取り出していた。それは赤とも黄色とも付かない光を宿していた。 「これは王子、既に手に入れてくださっていたとは」 「ちゃんと皆を助けてくれるよな?」 「ああ、勿論」 種石がフェイスマスターの手に渡る。光にかざし、頭上に掲げて種石を眺める。 シンもラクスも固唾を呑んでその様子を眺めるが、にやりと笑みを浮かべた顔が不意にラクスを捉える。 「これが神授の種石。確かにきれいだね、未知の力を秘めてる感じだ。でも、これが王家の証ということは、もうアンタに用はないわけだ。似た容姿の女を王女に仕立てて、友好を訴えればいいんだからな」 ああ、やはり物事はこう運ぶのだ。 王家の証があればいくらでも偽者を立てることができる。 「ディアッカ!」 シンは思わず剣に手をかけたディアッカとラクスの間に割り込む。 「これが帝国の為だ。お退きください、殿下」 シンはディアッカを見上げて首を横に振る。 ディアッカが長々とため息を付いた。 シンはイザークに良く付き従っている目の前のフェイスをよく知っている。あの兄とやっていける稀有な人物であることも、けれど、納得できないことだった。 「これが法の番人のする事かよ」 「より良く帝国を治める為には、状況に見て対応しなけりゃいけない事もある。分かっているだろう? これからお前も理解していかなきゃいけないことだ」 「でも・・・兄上達は誰もそんな事言わなかった!」 なおも言い募ろうとするシンをキラが制した。 「シン、どいて」 「そうそうお前達の思い通りにいかせるか!」 剣を構えたのはキラとダコスタ。 そしてラクスまでがゆっくりと歩み寄る。 「わたくしはここで死ぬわけには行きません」 「王国復興なんて夢物語りだぜ?」 ディアッカが軽く手を振ると帝国兵が皆を取り囲む。シンはラクス達を庇うように前に出るが、肩をアレックスに掴まれていた。 「前に出るな。お前は人質になる」 囁かれた言葉に驚いて振り返るが、アレックスは笑いながらディアッカに視線を合わせる。目の前にシンを引き寄せて、ちゃっかりミーアがシンの首に狙いを定める。 「何すんだよ、アレックス!?」 「人質を取るなど、そのような卑怯な事は許しません。帝国の王子を離しなさい、空賊」 正攻法で切り抜けようとする王女と王子とは別に、ここには空賊がいた。 「大切な王子様なんだろ? そっちの欲しいものは手に入ったんだし、ここは見逃してくれないかな」 「さすが空賊だねえ」 ディアッカが面白そうにアレックスを見る。アレックスもシンの首を腕で絞め上げて、言葉を封じる。突然の展開に、キラとダコスタは振り上げた剣をゆっくりと降ろした。 「お宅の王子様が俺の報酬を横取りしたんだから、当然だろ? なあ、シン」 報酬って・・・あの女神像の宝石! 「いいぜ、空賊。殿下はどうする?」 ここに残って帝都に帰るか、ラクス達とアプリリウスに行くか。 王国復興レジスタンスに興味はない、けれど、自分はステラを無事に送り届けると決めていた。このままアレックスやキラに頼んでも彼女は無事に帰ることができるだろう。 けれど、元々は自分が言い出したことだった。 王子として自分は何も知らず、キラやラクスの役に立てなかった。 窮地を潜り抜ける術はアレックスやミーアに及ばない。 女の子1人助けられない、そんな自分は嫌だった。 「俺はやり遂げないといけないことがあるから、まだ帰らない!」 肩を竦めたディアッカが手を横に振る。それを合図にシンの拘束は外れ、踵を返して別の飛行甲板を目指した。フェイスマスターがさっさと行けと言わんばかりに横を向いたのだった。 「よろしいのですか?」 「仕方ないだろーが。どうやって手を出すんだよ」 レジスタンスの首謀者である王女をみすみす取り逃がし、あまつさえ王子まで行かせてしまった。アプリリウスの執政官になんと言い訳しようか、ディアッカはやれやれと首に手をやった。 「今度はちゃんと飛空挺があるんだろうな!」 ついさっきまでも同じように飛行甲板を目指して走っていたのだ、誰もが抱いていた不安だった。いざたどり着いてみれば何もない、では洒落にならない。 「グゥル型輸送挺を確保している」 「あんなポンコツ・・・主人公らしくない!」 ダコスタの返答にアレックスが顔を顰めた。 確かにたどり着いてみれば、輸送機以外の何者でもないデザインの輸送艇が一機ある。シンがいるから撃墜されたり、空中で爆発することはないだろうが、これはこれで大丈夫なのか? というほどのポンコツである。 誰もそれは口に出さずに次々と乗り込む。最後、シンがステラを引き上げて、アレックスが機密を確認する時、彼がシンの肩を叩いた。 「さっきはすまなかったな」 「いいよ。ちょっと驚いたけどさ」 キラが二人を出迎えて、ステラを先に行かせる。 「君、よくあんな博打、打てたね」 「何となく、さ」 話しながらコックピッドに入れば、ミーアが発進のスタンバイをしていた。アレックスが状況を聞いて、パイロットシートに座る。シンは後ろからその様子を覗き込んだ。 「アレックス。ごめん、俺、約束していたよな」 操縦に集中する彼から返事はない。 「それにラクスも・・・俺が盗み出していたからこんなことに」 「シンのせいではありませんわ」 やんわりとラクスは否定したが、現実は厳しかった。 「しかし、王家の証を奪われてしまいました」 ダコスタの言うとおり命は助かったものの、ラクスがクライン王家の王女であると証明するものがなくなってしまった。誰もが事態を重く見て黙り込む中、ラクスが少し考え込んで口を開く。 「王家の証である神授の種石は他にもあります。その在り処はクライン王家にしか伝わらない、いわばもう一つの王家の証・暁の種石」 発進した輸送艇は本当にゆっくりと艦隊を後にする。 まっすぐ空中としに引き返すことが、バルトフェルト侯を巻き込むことになると分かっていたが今はそこに向かう以外なかった。 「では暁の種石を手に入れられれば殿下の身の証が立つと」 「それは・・・グレン王の王墓にあるのです」 大陸を統一し巨大な連邦国家を築き上げた伝説の王、ジョージ・グレン。 彼の死後、子孫達に国家は分けられて今の国家の元となった。月日が経った今でも、覇王ジョージ・グレンの存在は謎に包まれていて、その墓さえ見つかっていない。 その秘境中の秘境へ。 帰り着いた空中都市の飛空挺ターミナルで、ラクスを先頭に進む。 「王墓へは私が案内します」 ラクスはアレックスへ告げたが、反対に彼は足を止めた。苦笑交じりに腕を組んで、ラクスと後ろに控えるダコスタを見た。 「ちょっと待ってくれ。まだ俺は、一緒に行くと言ってないんだが」 戻る 次へ 急展開ですか、そうですか。導入部分がようやく終了です・・・当初の計画からだいぶ遅れております。
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#blognavi ネットめぐりもできないこの忙しさ。 土曜出勤はもちろんの事、日曜もパソコン持ち帰って家でSSL-VPN経由で仕事かよー!。それでも間に合わなさそうな・・・明日が一次締め切りなんだけど。きついなあ。 夜はとてもパソコンを立ち上げる余裕がないから朝っぱらに書き込んでいます。開店休業状態のこのサイトなのに、拍手がったりするからありがたいと言うか、申し訳ない。 10月カットオーバーだから、8月9月を乗り切れば落ち着くんだけどな。これからが正念場だ。今日から受け入れ検証だしな・・・。ど、ど、どーなる? カテゴリ [つれづれ] - trackback- 2006年08月23日 06 55 58 #blognavi
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