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Level 23 国の行事には必ず出席し、国民や王都の姿をその目に納めていた第1107エターナル王の最後は、あっけないものだった。 「おとーさまあぁぁ――――――っ!!」 逝去の瞬間、王女が泣き叫んで崩れ落ちた。 ズラリと取り囲んだ議会高官や神官達も一様に頭を垂れ、そして非情にも王女カガリへと向き直って告げる。貴方が次の王だと。 そうして、自動的に第一子にして唯一の子供であるカガリへと王位が移った。 だが、正式にエターナル王として即位する為には数々の儀式を踏まなければならず、その中の最たるものが、君主の杖の継承だった。 君主の杖を携えてドラゴンズピークへ出向き、ゴールドドラゴンに騎乗して戻ってくるのだ。王としてその力を広く遍く知らしめる為に。 ドラゴンズピークには数十体とゴールドドラゴン達が住み着いていて、頂上にいる長の下に統率されている。彼らは全て、これから会う長の子孫達だ。 金の鱗と金の目をした竜に負けじと、金の髪となびかせ、金の瞳で睨み返して新女王がドラゴンズピークを登る。 新王カガリが頂にある竜の門を潜る。ゴールドドラゴンに認められて初めて、エターナル王と言えるのだ。 不安と恐怖に震える心を奮い立たせる為に手に光り輝く金の杖を握り締める。 「志は私が引き継ぎます・・・お父様・・・」 門をくぐり、霧で覆われた通路の先に見えた巨大な鉄の扉。 中央に大きく掘り込まれた金のレリーフはエターナルの紋章。 その門がカガリが触れる前にゆっくりと開く。 軽く息を吸い込む新王を待っていたのは意外な姿で。 「お、お前はっ!?」 仄かな恋心を寄せていた王国最強のメイジ・キラ。執政に影のように寄り添う彼がどうしてここにと、カガリの思考が混乱する。口を開きかけては、パクパクと空気だけを食む。 そんな彼女の様子に苦笑して、カガリの目の前の存在が視線を逸らした先には。 「紹介するよ。君は初めて会うことになる」 たおやかな微笑を湛え、ピンク色の長い髪を揺らしている女性がゆっくりと歩いてくる。 「ラクス。エターナルの新しい王、カガリだ」 「始めまして。ラクス・クラインですわ」 ゴールドドラゴンと共に悪を打ち倒し、エターナル王国を打ち立てた伝説の乙女。 初代女王。その女性が目の前にいる。 「・・・ラクス・クライン様・・・っ!」 夢や幻かしなのではない。王国が興る時に在った女性がなぜ、ここに。 確かに肖像画や言い伝えどおりの姿をしているが。 カガリはしばし呆然とし、はっとして最高礼を取った。 「お願いがあるのですわ」 カガリがそろそろと顔を上げる。 笑みを浮かべたままの顔で、興国の女王が言う。 「その杖、渡してくださいな」 杖を両手で握り締めたまま、新女王が息を呑む。 「取り上げるのか?」 「杖で無理やり竜を跪かせて何になりましょう。力ずくで国を支配し、竜を支配して、それで満足ですか? 私は貴方のお父様にも、そのお父様にも同じ事を問いましたが、皆、貴方と同じ答えでした。もう一度言います。もうその杖に頼るのはお止めなさい」 「それはできない」 カガリが小さな声で伝える。私にはこれが必要だ、と。 議会と戦う為に、国の為に、国民の為に。だから、これを私から取り上げないでくれ。彼らの魔法に対抗するにはゴールドドラゴンの力が必要なんだ。そう、訴える。 「杖の力を使って、ゴールドドラゴン達に戦いをさせる気なのですか?」 「ラクス。別にそれはいいんだ。それが僕達の選んだ道なのかも知れないから」 「でも、キラ!」 そう、初代女王の横に平然と立つこの男はキラだった。 「一体、何者なんだ。なぜドラゴンズピークの頂にいる?」 「君は、もう分かっていると思うけど?」 キラは他でもない、ゴールドドラゴンなのだと。 「でも! ならどうして、執政の下で働いている!? どうしてエターナルの為に動かないっ! そのためにお父様は・・・」 涙を散らして新女王が叫ぶが、ゴールドドラゴンは答えない。 その昔、ゴールドドラゴンと共に悪の竜を倒した女性が打ち立てた王国エターナルは、竜に守護される国と言われている。君主の杖はドラゴン達の忠誠の証として送られたと。 それが、本当はどうだろう。 ゴールドドラゴンの加護など、どこにあると言うのだ。ただ、杖の力で無理やり彼らを従えているだけ。貴族達がメイジの力で国民を力ずくで支配しているのと何も変わらない。 それが、この王国エターナルの真実。 「私は諦めない。今はまだドラゴンの力に頼らなきゃ何もできないけれど、いつかお父様が目指された、皆が平等に暮らせる国を作って見せる」 そう言って、カガリは君主の杖を高く翳した。 杖の先の宝珠が金色に光り輝いて、新女王はゴールドドラゴンに王宮まで送れと命じた。 文字通りゴールドドラゴンの背に乗って王宮に舞い戻った新女王。歓喜に包まれて臣下が女王を取り囲む。王宮へ下がろうとする女王を臣下が一人、執政が待ち構えていた。 「何か恐ろしいものでも見られましたか、女王?」 執政の後に控えるキラを盗み見て、硬い表情のままカガリ女王が侍女に囲まれて王宮に消える。程なくして開かれた議会で、女王が先王と同じ法案を議会に提出すると宣言する。 その年、カガリ女王の即位と同時に、議会と女王との亀裂が決定的になる。 Level 24 「ここが杖のある所・・・?」 シンは小高い丘の麓で、辺りを見回した。 鬱蒼と茂った森、深い渓谷とか怪しげな古城など、迷宮になりそうなものが何もない。 「なんだか、のどか~って感じですよね」 「ダンジョンなんてどこにもないし」 「シンの目の前にあるぞ」 そう言うアスランが見上げる先には、青空とそこに続くなだらかな丘があるのみ。 まさか、この丘全体が? 杖は掘り当てるのかっ!? 「入り口は結界に隠されている。違いますか?」 シンは声のした方を振り返れば、アスランの横にワイバーンに乗った金髪のエルフがいた。事も無げにワイバーンから飛び降りて、丘を前に立ちすくむシン達に近づく。 「レイっ!?」 「あっ・・・俺たち・・・」 廃城からこちら、レイのことをすっかり失念していたシンとルナマリア。 大怪我したシンの事でそれ所ではなかったし、レイは杖を狙う盗賊ギルド側だから一々報告する義務はないのだが、何か気まずい気がする。 「気にするな。俺は気にしていない」 「うっ」 レイに先手を打たれて謝ることもできなくなってしまい、シンはもやもやしたものを抱えたまま口篭もる。 「おまえ達に事情があるように、俺にも事情がある。それだけだ」 「まだ杖を、狙っているのか・・・?」 「女王や、執政に渡すよりは」 ただでさえ君主の杖でゴールドドラゴンを操る国王は巨大な力を持つのだ、さらに杖を手に入れて、手がつけられなくなったら困る。まして、国王と反目する執政側が杖を手に入れて王国が内乱に発展にするのも宜しくない。 権力を持つ者が、過ぎた力を持つことほど厄介なものはない。 レイが彼の主であるギルドマスターの言葉を借りて説明する。 「その点、お前は安全だ。ただの盗賊だからな」 ちょっと、その言い方は傷つくよ。 シンはムッとして、「そうだよねえ」と笑うルナマリアやメイリンを見る。アスランまで苦笑しているではないか。 「どうせ、俺はただのこそ泥だよ!」 「だからだ、シン。君は人が生きていくのに、本当に必要なものが何かを知っている」 シンの肩に手を置き、誉めているのか疑わしい言葉でアスランが慰める。 本当に必要なもの? 「俺は最初、君がドラゴンの瞳を手に入れられるなんて思ってなかったんだ。またギルドに騙されたかわいそうな盗賊がやってきたなあと思って。それが、見事リトルレッドドラゴンを倒して、あのキラとやりあうなんて信じられなかった」 ああ、どうせ、そんなことだろうと思ったよ。 この人は俺のことをまるで何も知らない子供を見る目で見る。 「今は、そうだな、シンなら杖を渡してもいいかって思う」 それが今は。 まるで自分が杖の持ち主みたいに、そんなことを。諦めた夢を託すように言って。 「忘れないで欲しい。ジュールの杖を手に入れても、力に飲み込まれるな」 それが、今、アスランから託された杖の名前。 恐ろしい呪いと引き換えに力を約束してくれる、その杖の名は、ジュールの杖。 心地よくて、不思議と懐かしい彼の声が頭の中にストンと落ちて、一瞬、シンはこの場にはアスランと二人だけしかいないような気になっていた。 トリップしてしまったシンを横目にレイが姉妹に声をかける。 「ルナマリア、メイリン、力を貸してくれ。丘の入り口を出現させる」 「えっ? あっ、分かったわ」 シンがアスランに忠告めいたことを言われている後で、3人がかりで、隠蔽されている丘本来の姿を解除するリリースの魔法をかける。何の変哲もない丘の周囲には崩れ落ちた石垣を出現し、その一角に僅かに門らしき跡があった。 続く うむ。取り留めのないつなぎの話ばかりで、まとまりがありませぬ。本当は、「次回、D D 『嘱望』 王位の継承の為に訪れたドラゴンズピークでカガリ王女は王国の真の姿を知る!?」みたいな引きから、今回のお話に繋がるはずだったのに。そんな感じになってませんよねえ。元々、継承の話の一部だったからかなあ・・・精進。精進。
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勝利者などいない 監視官は屋上に留まって、今回の一網打尽作戦の報告を聞いていた。 「あと1時間でレジスタンス組織アジトへの突入準備が整います、現場へ行かれますか? ヤマト殿」 「遠慮するよ。それより、あのキーホルダー知らないかな」 殿上人の監視官と会話がかみ合わないのはいつものとおりと、報告をした下士官は、首をかしげた。アークエンジェルに乗る監視官はその中でも特別、話が合わないと聞こえた、スーパーコーディネーター。しかし、次の一声は、また一層脈絡のない、とんでもない命令だった。 「厳戒令敷くよ」 過去の情景に気を取られていた一瞬に、相当落下していた。 あまりの迂闊さに、地表を感じてワイヤーを飛ばす。振り子のように隣のビルの窓ガラスに突っ込んだ。ガラスが突き刺さる衝撃と床を転がる衝撃がない交ぜになって、思わず呻き声が出る。 こんな所でプラント送りなんて冗談じゃない! コーディネーター専用の監獄。そこで待ち受けるのは普通の人間ではできない危険な仕事や重労働、人体実験。武装警官が押し寄せる中、シンは必死に脱出の方法を考えていた。勿論、相手にコーディネーターがいるのを前提だ。 夜目が利く。動きも動体視力も同じだとして。 多勢に無勢だ、ちくしょう! 地の利を生かせるとしても数で迫られればひとたまりもない。階段を上がり、隣のビルに飛び移り、そのビルも包囲されていることに気がつく。すぐ下の階にまで武装警官が来ている。 辺り一体はすでに封鎖済みかよ! 思わず息を呑む瞬間。 「こっちだ」 手を引かれて、振りほどこうとして、できなかった。 「あんたっ、ア!」 すぐに口に指で口止めされた。 シーッ・・・ エレベータシャフトを下る二人は、地下何階かも分からない場所から昔の廃水路 を辿って地上に出た。 終始無言だったシンが口を開けたのは、ドアを閉めてから。 既に日は昇り、上空を引っ切り無しにヘリが飛び、サイレンがどこかでなっているいつもより騒がしい朝。 場所はかつてヤキソバをご馳走になった一部屋。 シンを助けたのはアレックスだった。 「どういうことだよ!」 「どうって、君を助けただけだ」 「どうして助けたのかって聞いているんだ」 玄関先で怒鳴りあう、と言っても一方的にシンが怒鳴っているだけである。 「ここじゃなんだし、まず上がって、それからシャワーを浴びよう。ひどい臭いだ」 うわっ、すげー臭い。ってそうじゃねーだろ、俺! 「二人同時は無理だからな、お前先に使っていいぞ、シン」 「あっ、ハイ」 だから、ハイってなんだよ、ハイって。 今はそんなことしている場合じゃない。ルナ達がどうなったか、この騒がしさはなんなのか、どうして俺は助かったのか、シンは今考えるべきことを列挙してみた。 「じゃない!」 振り向いたアレックスが呆れた視線で振り向いた。彼の手が挙がる先にテレビがあって、電源が入る。コーディネーターの耳にはその微かな高周波さえ捕らえることができてしまう。 だから、シンには、テレビのアナウンサーが言っていることが分からないはずがなかった。 『これは、本日未明に実施された東地区レジスタンス一斉逮捕の現場です』 『ここ一ヶ月頻発していた襲撃事件のほとんどに絡むと見られており、これからの事態究明が急がれます』 勝手に体が動いていて、モニタの前でその映像を見ていた。 シンには見知った建物で、窓からは白い煙があがっている。突入する部隊。銃撃戦。映像は何度も切り替わり、最後に投降してきたレジスタンスが映る。 「ヨウラン! ヴィーノ!!」 「知り合いか。これで分かっただろ。今はシャワーを浴びて、まず休め」 お湯のはずのシャワーがちっとも温かく感じられなかった。 彼らのことを考えて、壁を叩く。 地下をさ迷っているうちに、事態は大きく動いてしまっていた。 濡れた髪をそのままに、部屋の住人の前に出れば、彼がタオルを投げて寄越す。突然だったから、洗いざらしのタオルがシンの顔面に激突する。 「ちゃんと拭け、それから、冷蔵庫にあるもの食べていいから。助けに行こうとか考えるなよ」 アレックスがシャワールームに消えてすぐ、テレビでは街に厳戒令が敷かれたことを伝えていた。街に溢れるMPが映し出され、街の住人が取調べを受けている。 映像が切り替わって、シンは髪を拭く手が止まった。住人の消えた東ブロックは終戦直後のように瓦礫の山と化していたのだった。 「そんな・・・」 呟きと共に力なく手が下がる。 喫茶店、学校、全てが瓦礫の下だった。鍋ややかんを修理するじいさんは、荷物運びをする少年達はどこへ行ったんだ。 『東ブロック再開発プロジェクトの開始に伴い、今後は一層の治安悪化が懸念されることから、当局は各ブロックの警備強化を打ち出すことを発表』 「ローラー作戦でもする気かな、監視官達は」 Tシャツにジーパンのアレックスが、自分は半乾きの髪のまま現れた。冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出す。シンはただ彼の動きを目で追い、耳は朝のニュースを聞いている。 「居場所。どうして分かったんだ?」 「そのキーホルダーには、居場所探知機能があるんだ」 「は?」 ニュースと2重音声だから、シンの応答は短い。 「家出常習犯のペット用だから」 そんなものを渡されていたという事実と繰り返される投降の瞬間。 テレビでそのシーンを繰り返し眺めているシン。 「どうして」 「なんだか、放って置けなかったんだよ」 前回、ちょっと長かったので、今回ちょろっとです。
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#blognavi 初・海草パック体験、フランス産の海草だってさ。終わった後、手が物凄く昆布くさくなりました。 あっという間に、休みも後1日。2日から毎日出ずっぱりで、結構買い物したなあ、と。 メモ...φ ウルリッヒ=ウェゲナー(1929-) GSG9創設者 ブランデンブルク州ユーターボーク生まれ、空軍在籍中に終戦 1950年東で反体制ビラをまいて1年投獄、1952年、西へ移動 西独軍の幹部候補生に 彼と親交があったとか?しかし存命中な上、フェイスブックやってる 上司はほったらかしだったので、一般人の生活費しか出ず、必要経費は自腹。 東の人民警察の第9中隊の隊員としてか、シュタージのAGM/Sのグループメンバーか、そいつに情報を流す役かで。 最も、普段はヒューミントによる情報収集だけど、情報を売って生活する。 マルクス=ヴォルフ(1923-2006) シュタージの対外諜報部門長 ミーシャ バーデン=ヴュルテンベルク州、ヘッヒンゲン生まれ!ホーエンツォレルン城がある街・・・ ユダヤ迫害でソ連亡命、ソ連で教育を受け対独として戦後ドイツに送り込まれる いろいろあって、シュタージの長に、1979年に容貌が西側にばれる 統一後はオーストリア行ったりアメリカ行こうとしたが、晩年はベルリン在住で没 カテゴリ [つれづれ] - trackback- 2013年01月05日 21 15 53 #blognavi
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管理人の日記/2007年09月04日/初めての 管理人の日記/2007年09月04日/ちょっと思いついたんですが #blognavi
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王女と王子と種石 「シン・・・まさか本当に・・・?」 「あっ、いや、だから!」 シンは両手を振るが、違うと否定はできない。残念ながらうまく言い訳したり、誤魔化すことができるような歳ではなかった。本人の狼狽振りから誰もが、そうなのだと・・・シンがプラント皇帝の息子なのだと言うことを証明していた。 「ターミナルがどこにあったのかも知らない子供が、シン・アスカ・プラント・・・」 シンは動転していて、アレックスの扱いがガキから子供にレベルアップしていることに気がつかない。ただの少年と王子のギャップを比較して、シンにフィットした方は何処にでもいる少年の方だったのだ。シンが衛兵に対して騒いだ時も皇帝の息子だとは微塵も思わなかった3人。 「王子様って世間知らずなのねえ」 「それだけ大切にされてきたってことさ」 バルトフェルト侯が締めくくると、キラがアレックスに向き直る。 「君、大丈夫?」 「何が・・・」 「だって、色々失礼な事言ったじゃない? ガキとか、トロいとか」 「あーー」 と頷いたのはミーアだった。やや遅れてアレックスが数々の不敬を思い出したようだ。いくら、自由人の空賊とて、帝国の王子相手に『このガキ』はまずいだろう。 「そっ、そうだな」 明後日の方を向くアレックス。ミーアはミーアで指折り失礼な言動を数えている。 シンは慌てふためくアレックスが見たかったのだろうかと、空賊の二人を見て思う。オーバーなリアクションを期待していたわけではない。けれど、少しも劇的でない展開に自分の名の重さをいぶかしむ。 「そういう将軍だっていいのか? 憎き仇国の王子だぞ、チャンスじゃないか」 「怖い事、しれっと言わないでよ。今、どうこうするつもりはないし、殿下だって分かっている。もう帰るでしょ、侯にばれてしまったのだから」 ね? 確認するキラにシンは自然と口をついて出ていた。 「俺、ステラをアプリリウスまで送っていくから! アウルやスティング達の所に早く帰りたいよな?」 「シン?」 1人ステラだけが相変わらず話しについていけず、突然話しかけられてびっくりしている。シンは深く追求されても困るし、事実、問い詰められても困る。兄達や父は帝国の中枢で政治を動かしているがシン自身は何の権限もない子供なのだ。 難しいことは分からないし、知りもしない。 アレックスとキラの言うアプリル復興にしたって、それが帝国にとって好ましくないこと。程度の認識なのだ。自分が王子である。そのことにほとんど意味がないような気がして、シンはこれ以上この話題を続けたくなかった。 「セイバートリィにだって乗りたいよな!」 「送るのは、俺なんだか。シン、殿下」 強引に飛空挺を持ち出せば、アレックスが一呼吸入れて言う。 聞き慣れないフレーズに自然と眉を寄せていた。 「何だよ。急に止めてくれよ気持ち悪い。・・・シンでいい」 「しかし、ですね」 この場にはバルトフェルト侯もいる。滅多な事は言えないのは分かるが、ひどく嫌だったのだ。彼から『殿下』と呼ばれる、その他人行儀さが。 「今更だろ。俺だって、その、丁寧な言葉とか疲れるし・・・」 そうなのだ、王子として扱われるということは、シン自らもそのように振舞わなければならないのだ。生まれた時から上に立つ者のオーラを放っていたのではないか疑わしい兄達とは違って、シンはそれを堅苦しいと思っていた。 できれば皆からも、自分も、今まで通りがいい。 帝国の王子としては失格かもしれない・・・どうするべきなのか咄嗟に判断できずにいると。 「そうだな! お前がそう言ってくれて助かったよ。今更、プラントの王子として接するなんて無理だし、ああ、気が楽になった」 「そんなあからさまに安心しなくてもいいじゃない」 シンは肩の力を抜いて、胸を撫で下ろしているアレックスとミーアを見る。同じように二人を見ていたキラと目が合って思わず苦笑してしまった。そして、急に表情を引き締める元将軍を見て、本当は彼がバルトフェルト侯に会いたがっていたのを思い出す。 「では、本題に入ろうか」 気づいていたのはシンだけではなかったようだ。向き直ったバルトフェルト侯は鋭い眼光をキラに向けていた。この一言で部屋の空気が1・2度下がる。 「バルトフェルト侯にお伺いしたことがあるのですが」 キラも負けてはいない。 伺いたいこと・・・滅びた王国で最後まで抵抗を試みた将軍が問いかけることなど一つしかない。囁かれている噂の真相。 「アプリル復興レジスタンスに協力しているという話は、本当ですか?」 この場にシンがいるにもかかわらずキラは口を開いた。 狐か狸かと問われればおそらく狸だ。 明確な答えを出さず、しかし確かに助力をほのめかした壮年の男。どこか一番上の兄に通じるものを感じつつ、シンは空中都市に横付けしている帝国軍の艦隊を見る。 プラント帝国軍第8艦隊。 司令官はフェイスマスター・ディアッカ。 侯爵の館で明かした一夜の内に出現した艦隊を指して、バルトフェルト侯はシンに『すまないね』と笑う。侯爵はシンの存在を帝国に通報し、朝からこの騒ぎとなったのだ。シン1人を連れ戻すために一個艦隊が空中都市にやって来た。 「それだけでもないがね」 王子1人の護衛。最もな理由だが、帝国にもレジスタンスにも繋がっている侯はキラに向かって告げる。 「ある重要人物を護送しているという話だ。何でも・・・レジスタンスの首謀者らしいが、なぜ帝都からアプリリウスに送り返すのだろうねえ」 レジスタンスの首謀者と聞かされて真っ先に思い浮かぶのはピンク色の髪の女。 「その人物を助け出せと?」 「おや。彼女の居場所を聞き出すのが君の目的じゃなかったのかな? ヤマト将軍」 侯爵とキラのやり取りをシンはアレックスやミーアと一緒に見ていた。 「そうおっしゃるからには、手助けして頂けるのですね」 「まさか。私はヤマト将軍を名乗るレジスタンスを捕らえたと帝国に引き渡すだけさ」 キラが目を瞠り、アレックスが笑った。 ミーアが天井を見上げてため息をついてシンを見るから、首を傾げた。 「飛空戦艦に送ってやるから、後は自分でなんとかしろって事よ」 ミーアの分かりやすい説明に、バルトフェルト侯が笑う。 窓から見える第8艦隊、飛空戦艦の中でレジスタンスの首謀者を探して脱出する。そんな危険な事を侯はキラにあっさり振った。 「そんなの1人じゃ無理に決まってるじゃん」 飛空戦艦は帝国の軍艦なのだ。中には山のように帝国軍が詰まっている。牢獄だって簡単に突破できるとは思えない。帰りはどうするのだ、脱出は。帝国軍の飛空挺を奪って逃げるのか? 「あれ、僕1人で行くわけじゃないけど?」 「は?」 「その子を助けるのに僕は協力したのにね、さすが、帝国の王子様は恩知らずで薄情だ」 今度はアレックスとミーアが笑う。 「おい、連れて行くつもりなのか? 世間知らずのお子様じゃ足手まといだろう」 「アンタだって一緒に行くんですからね! 逃げる時、飛空挺を誰が動かすんですか!」 アレックスがピタリと笑うのを止めて何か言おうとした時、ステラがシンの服を引っ張っていた。結局、最後まで笑っていたのは侯爵だけだった。こうして、バルトフェルト侯の手引きで、いや突き出されて、帝国軍の飛空戦艦に行くことになった。 揃って営倉のあるフロアに連行された彼らは、3つの部屋に分けられて放り込まれる。ミーアとステラ、シンとアレックス、そしてキラ。 「お前、本当に王子なのか?」 詮索されずにさっさと営倉に入れられたシンをアレックスが申し訳なさそうに見る。帝国の王子なのに、何の疑いもなく一緒に投獄されてしまったシン。言葉に詰まるシンを横目にアレックスは早速扉に近寄って、ゴソゴソと手を動かし始めた。 「ミーア、そっちはどうだ?」 「・・・あと少し」 向かいの部屋に入れられたアレックスとミーアが牢破りを試みていた。シンはその様子を黙って見ているしかなかったが、空賊が割りとあっさりドアを開けてしまうのを見て帝国の技術力に不安を持った。 「うわ、開いた」 「驚いてないで、そっち瞠ってろ」 キラの部屋のドアが開いた時にはミーアもステラも通路に出てきていた。通報もされず、警報も鳴らずますますシンは不安になる。 こんなに簡単でいいのだろうか? 見張りの警備兵も気が付く気配がない。アレックスが苦笑してミーアと顔を見合わせる。これでは空賊に捕まったほうが余程厳重だと言うことなのだろう。 「弛んでるなあ、帝国軍も」 「この調子で、救出作戦もお願いしたいよ」 唯1人の見張り兵を倒して剣を奪ったキラが零す。 それはそれで大丈夫か、帝国!? とシンは思うのだが、それはこの際胸に留めて置くことにする。ステラの手を握って一行は重要人物が捕らえられているという最下層の営倉を目指した。 飛空戦艦の中はさすが最新鋭の帝国軍なだけあって、近代装備が満載されていた。それがゆえに人員が少な目なのが幸いしている。出会う帝国兵は少なく、各個撃破できない数ではなかった。 だが、それも最初のフロアーだけだった。 「あの、キリがないんですけど!」 「泣き言を言うな」 「本当にこのルートでいいんですかっ!?」 飛空挺なんざどれも造りは同じだと言って、アレックスがルート選択していた。地上と違ってここは空中で巨大な飛空戦艦の中である。同じ飛空挺乗りの空賊の勘を充てにしていたのだが、先程から同じ壁ばかり。 「警報が鳴らないだけましだと思えっ!」 「うわっ、もうやけくそだよ、彼」 空中とは思えない揺れのなさ、窓が一つもない巨大な建造物の中では地上も空中も何も変わらない。キラとシンが奪った剣を振り回し、アレックスが帝国兵から奪った銃で狙撃する。ミーアとステラが索敵し治療に当たる。 しかし、これでは肝心の最下層にたどり着くまでに力尽きてしまいそうだ。 少しずつ近づいて来てはいるのだろうが、さすがに中心部に近づいているだけあって警備も厳重になってきている。パトロールの帝国兵も増えてくる。 「どこかに最下層に繋がるシャフトがあるはずだ」 「どこかって、どこに!」 「だから、それを探しているんじゃないか」 キラが溜息を付き、ミーアが腕を組んだ。 「ってことは、また迷っているのね・・・」 「さて、どうする。シン?」 キラがステラと共に最後尾を走っていたシンに声を投げる。 「俺っ!?」 「何か知らない?」 と聞かれても、知らないものは答えようがない。 兄達なら答えられたかも知れない、悔しいけれどシンはまだ自分の艦隊を持たない子供だった。 「別に王子だからて、何でもかんでも知っているわけじゃないよ」 「黙ってっ!」 急にミーアがが静止して、目を閉じる。その時にはアレックスも周囲を伺っていてステラがぎゅっとシンの腕を掴む。ガチャガチャとなる鎧の音に幾つもの足音。通路の前と後ろに帝国兵がいて囲まれていた。 前方の帝国兵の一団を突破して通路の角を回る。背後から迫る帝国兵の攻撃がすぐ後ろの壁に炸裂する。稲妻が飛び散り、一瞬フラッシュに包まれたその攻撃。 「魔法攻撃!?」 「魔導士がいるのかっ!」 剣や銃を獲物にせず、魔法を持って攻撃をする彼らを総称して魔導士と呼ぶ。魔法を使う彼らは、当然軍においても重宝されている。背中に感じた熱が炎の魔法だと知って、血の気が引く。 こんなものどうやって防ぐんだよ!? ステラが目を瞑って必死に走っている。 ブロックを走り抜けてようやくシャフトにたどり着いた。しかし、シャフトの中から出てきたのは鎧の音を立てる帝国兵だった。後ろからも帝国兵が迫る。 「くそっ」 シン達は武器を手に臨戦態勢を取ったが、眼前の帝国兵は手を上げて鎧兜を取った。 見知らぬ顔だが、キラだけがその相手を知っていた。 「ダコスタっ!? どうしてここに」 「ヤマト将軍、貴方と同じようにバルトフェルト侯に頼み込みました」 浅黒い肌に赤毛の男が話しかける。キラと顔見知り・・・と言うより。キラと同じようにと言うことはアプリル復興レジスタンスの関係だろうか。帝国には珍しい肌の色に推測する。 「ぐずぐずしている時間はありません。早くシャフトの中にっ!」 雪崩れ込んできた帝国兵と間一髪でシャフトが下降し始める。 「君も彼女を助けに?」 「殿下は我らの希望です」 アレックスがシンを見るが、どうやら違う人物を指しているようだ。キラとダコスタと呼ばれた男の間では会話が成立しており、アレックスとミーアが二人を凝視している。今、彼が救い出そうとしているのはレジスタンスの首謀者とされる人物。 それをキラは彼女と呼び、相対する彼は彼女を殿下と呼んだ。 「彼はダコスタ。僕と同じアプリルの元軍人だよ」 キラが紹介するダコスタと言う男はシンとステラを一瞥してアレックスやミーアを見る。 彼から見たら実にまとまりのない集団だろう。シンとステラはまだ子供だし、アレックスは正体不明、ミーアは人間と一緒にいることがまずないキャンベラだ。 「ヤマト将軍、この者達は?」 「それって難しいなあ。何て言うべきだろうね」 キラがシン達を見回した所でシャフトのエレベータが止まる。 いよいよ最下層に到着したのだった。 営倉にたどり着いた彼らを待っていたのは、シンが思い浮かべた人物だった。 「また会ったな、アンタ」 「前にも言いました、アンタは止めて頂きたいですわ」 けれど、懐かしい挨拶を続ける前にダコスタが前に進み出て膝を折る。 「殿下、ご無事で何よりです。救出に参りました、すぐにここを出ましょう」 「ダコスタ、良くここまで」 「えっ、殿下って?」 シンがラクーナとダコスタを見比べていると、ダコスタがすっくと立ち上がって彼女を庇うように立つ。 「こちらはアプリルの、ラクス・クライン王女でありますよ」 ラクーナが王女。 王国の地下水脈であった女リーダーがなんとアプリルの王女。 あれ? とシンは頭をひねる。 「おいおい、ラクス王女は自害したんじゃなかったのか」 疑問を口にしたのはアレックスだった。そう、アプリル陥落の際に国王は殺害され、王女は自害したと伝えられている。それを発表したのは何を隠そうバルトフェルト侯だったはずだ。 「僕だって死んでいた事になっていたけれど、こうして生きている。王女が生きていても不思議はないんじゃない?」 「そういう問題じゃないだろ」 「そうか、プラントの王子とアプリルの王女が揃っちゃったのね」 びくっとしたのはレジスタンスの女リーダー改め、アプリルの王女ラクス・クライン。 当たり前だ、プラントの王子と聞いて平常心でいろというのは無理な話である。国を滅ぼした敵国の王子。それはダコスタも同じでにわかに最下層の営倉の通路に緊張感が走る。 そして、長いピンクの髪をしたラクーナがダコスタの背後にいる人物に目を留める。 「貴方は、ヤマト将軍・・・?!」 「はい。彼も殿下の救出に」 ダコスタの言を聞いてか聞かずしてか、彼女は眉を寄せてキラを睨み付けた。 「よくわたくしの前に顔を出せたものですわ」 彼女はまだ2年前の王国陥落の真実を知らないのだ。だから、キラは彼女にとって父である国王を殺害し、国が滅びるきっかけを作った裏切り者だった。 「殿下のお気持ちはごもっともですが、今、そしてこれから彼の力は必要です」 「裏切り者の助けなど!」 「そういう言い方はないんじゃないか? 仮にも自分を助けに来た奴に向かって。君は2年前の全ての真実を知っているわけじゃないだろう?」 「たかが、空賊に何が分かるというのです」 意外な事に、真っ先に『そんな作り話を信じられるか』と言ったアレックスがラクスに抗議した。ダコスタが恐れ多いと言わんばかりの怒りの視線を彼に向けたが、アレックスは構わず続ける。王女や元将軍を前にして空賊の彼は少しも物怖じしていないようだった。 「今はそんな事を言っている場合じゃない。ここを出るのが先決だ」 「急いだ方がいいと思うわ。足音が集まりつつあるもの」 ともすればここで2年前の暴露大会が始まってしまいそうなのをシンも感じていた。本当は一刻の猶予もないのに、だ。ステラを鉱山で助け出し、ラクス王女を見つけ出した。もうここには用はない。 「そうだよ。早く行こうぜ!」 ステラを除けば、一番状況を分かっていなさそうなシンに催促されるラクス王女とダコスタ。その姿はあまり格好いいものではない。 「殿下、急ぎましょう」 ダコスタが先導して今度は飛空戦艦の甲板を目指した。 最下層の営倉を一歩出た途端、艦内に警報が鳴り響いた。 「どこから沸いて出るんだよ!」 「相手にするなっ! 走れっ」 一々相手にしていたら保たないのだ。 接敵しても逃げられるのなら逃げる。極力最小の抵抗でフロアーを上がる。勿論どうしてもルート上抜けなければならない所は戦うしかないが、キラとダコスタがラクスを守るために奮闘する。 「殿下、お下がりください!」 シンは二人を見て忠義と言うものをはじめて知った気がした。 そして、それが彼女に相応しいかも。ラクスは滅びたとは言え一国の王女で、今もなおアプリル復興の為に先頭に立っている。 「ダコスタ! 殿下を守れ。ここは僕が切り開く!」 もし、帝国と王国との間で戦闘になったら帝国兵達は身を挺して自分を守るだろうか? フェイス達は帝国と王子とではどちらに重きを置くだろうか。答えは分かっている。だからこそプラント帝国は大きくなり、アプリル王国は滅びたのだ。 じゃあ、目の前の光景は? なぜ、彼らは冷たい鎧に覆われた帝国兵と必死に戦っている? 「この先が飛空甲板です。飛空挺で脱出しましょう」 「頼むよ、アレックス。後は君次第だ」 「だと、いいがな」 アレックスが銃を構え、ミーアがステラの手を引いて走り出した飛空甲板までの通路。出口の先に飛空挺までのタラップが見えた。左右のポートの左側は上がっていたが、右側は下ろされていた。 一同はタラップの先の飛空挺を探す。 そこはもう飛空挺の外で、雲と霞んだ地平線が見えた。風が巻き込んで髪を舞い上げる。 しかし、誰もが息を呑んで急に立ち止まる。 タラップの先にいたのは独特の鎧を纏った帝国兵だった。フェイスのマントが翻り、鎧の擦れ合う音が風に乗って響いた。 フェイスマスター・ディアッカ。 「残念でした、ラクス王女」 「フェイス・ディアッカ」 後ろからも帝国兵が現れる。囲まれてしまったシン達はタラップの先に飛空挺はなく、流れる雲だけを見る。前にも後ろにも下がれない。 「お約束が違いますが。確か、王女は平和の為に『黄昏の種石』をお渡し下さるとご提案なさった」 種石。どこかで聞いた気が・・・シンはステラがびくりと震えたのを見て思い出した。 空中都市の鉱山でステラが呟いた言葉。 「研究所で作ってるって奴か?」 「分からない」 シンとステラが小声で会話しているのを聞きつけたのか、フェイスマスターが一歩踏み出す。 「そっちの紛い物じゃないくて、さ」 ディアッカが続ける。 「グレン王が世界を統一した時に神から授かったと謂われる種石のことさ。覇王の末裔に伝わっているのは周知の事実だろう。王家の証として受け継がれているはずだ。その神授の種石の在り処を我らに明かすことを条件に、こうしてアプリリウスへと向かっているはずでしたね? ラクス・クライン殿下」 一息で告げる内容は聞きなれない単語ばかり。 グレン王は、かつてこの大陸を一つに纏め上げた最初で最後の覇王。その時に神から授かった物があったなどと、シンは初めて耳にした。 まして、プラント帝国がそれを人工的に作ろうとしているなんて。 「貴方はアプリリウスの王宮に眠っていると言われた。女神像の宝石だと。おとなしく在り処をお伝え頂ければ、そっちのお仲間の命は見逃してやってもいい」 「種石を手に入れてどうするというのです。女神像の秘めた宝と呼ばれていますが、あれは唯の美しい宝石ですわ」 女神像の秘めた宝? その言葉に反応したものが二人いた。 シンと宝物庫で鉢合わせしたアレックス。 ザッと近づく帝国兵。 「バカ。シン、止めろっ!」 アレックスが止めるよりも早く、シンは懐から王宮の宝物庫から盗み出した石を取り出していた。それは赤とも黄色とも付かない光を宿していた。 「これは王子、既に手に入れてくださっていたとは」 「ちゃんと皆を助けてくれるよな?」 「ああ、勿論」 種石がフェイスマスターの手に渡る。光にかざし、頭上に掲げて種石を眺める。 シンもラクスも固唾を呑んでその様子を眺めるが、にやりと笑みを浮かべた顔が不意にラクスを捉える。 「これが神授の種石。確かにきれいだね、未知の力を秘めてる感じだ。でも、これが王家の証ということは、もうアンタに用はないわけだ。似た容姿の女を王女に仕立てて、友好を訴えればいいんだからな」 ああ、やはり物事はこう運ぶのだ。 王家の証があればいくらでも偽者を立てることができる。 「ディアッカ!」 シンは思わず剣に手をかけたディアッカとラクスの間に割り込む。 「これが帝国の為だ。お退きください、殿下」 シンはディアッカを見上げて首を横に振る。 ディアッカが長々とため息を付いた。 シンはイザークに良く付き従っている目の前のフェイスをよく知っている。あの兄とやっていける稀有な人物であることも、けれど、納得できないことだった。 「これが法の番人のする事かよ」 「より良く帝国を治める為には、状況に見て対応しなけりゃいけない事もある。分かっているだろう? これからお前も理解していかなきゃいけないことだ」 「でも・・・兄上達は誰もそんな事言わなかった!」 なおも言い募ろうとするシンをキラが制した。 「シン、どいて」 「そうそうお前達の思い通りにいかせるか!」 剣を構えたのはキラとダコスタ。 そしてラクスまでがゆっくりと歩み寄る。 「わたくしはここで死ぬわけには行きません」 「王国復興なんて夢物語りだぜ?」 ディアッカが軽く手を振ると帝国兵が皆を取り囲む。シンはラクス達を庇うように前に出るが、肩をアレックスに掴まれていた。 「前に出るな。お前は人質になる」 囁かれた言葉に驚いて振り返るが、アレックスは笑いながらディアッカに視線を合わせる。目の前にシンを引き寄せて、ちゃっかりミーアがシンの首に狙いを定める。 「何すんだよ、アレックス!?」 「人質を取るなど、そのような卑怯な事は許しません。帝国の王子を離しなさい、空賊」 正攻法で切り抜けようとする王女と王子とは別に、ここには空賊がいた。 「大切な王子様なんだろ? そっちの欲しいものは手に入ったんだし、ここは見逃してくれないかな」 「さすが空賊だねえ」 ディアッカが面白そうにアレックスを見る。アレックスもシンの首を腕で絞め上げて、言葉を封じる。突然の展開に、キラとダコスタは振り上げた剣をゆっくりと降ろした。 「お宅の王子様が俺の報酬を横取りしたんだから、当然だろ? なあ、シン」 報酬って・・・あの女神像の宝石! 「いいぜ、空賊。殿下はどうする?」 ここに残って帝都に帰るか、ラクス達とアプリリウスに行くか。 王国復興レジスタンスに興味はない、けれど、自分はステラを無事に送り届けると決めていた。このままアレックスやキラに頼んでも彼女は無事に帰ることができるだろう。 けれど、元々は自分が言い出したことだった。 王子として自分は何も知らず、キラやラクスの役に立てなかった。 窮地を潜り抜ける術はアレックスやミーアに及ばない。 女の子1人助けられない、そんな自分は嫌だった。 「俺はやり遂げないといけないことがあるから、まだ帰らない!」 肩を竦めたディアッカが手を横に振る。それを合図にシンの拘束は外れ、踵を返して別の飛行甲板を目指した。フェイスマスターがさっさと行けと言わんばかりに横を向いたのだった。 「よろしいのですか?」 「仕方ないだろーが。どうやって手を出すんだよ」 レジスタンスの首謀者である王女をみすみす取り逃がし、あまつさえ王子まで行かせてしまった。アプリリウスの執政官になんと言い訳しようか、ディアッカはやれやれと首に手をやった。 「今度はちゃんと飛空挺があるんだろうな!」 ついさっきまでも同じように飛行甲板を目指して走っていたのだ、誰もが抱いていた不安だった。いざたどり着いてみれば何もない、では洒落にならない。 「グゥル型輸送挺を確保している」 「あんなポンコツ・・・主人公らしくない!」 ダコスタの返答にアレックスが顔を顰めた。 確かにたどり着いてみれば、輸送機以外の何者でもないデザインの輸送艇が一機ある。シンがいるから撃墜されたり、空中で爆発することはないだろうが、これはこれで大丈夫なのか? というほどのポンコツである。 誰もそれは口に出さずに次々と乗り込む。最後、シンがステラを引き上げて、アレックスが機密を確認する時、彼がシンの肩を叩いた。 「さっきはすまなかったな」 「いいよ。ちょっと驚いたけどさ」 キラが二人を出迎えて、ステラを先に行かせる。 「君、よくあんな博打、打てたね」 「何となく、さ」 話しながらコックピッドに入れば、ミーアが発進のスタンバイをしていた。アレックスが状況を聞いて、パイロットシートに座る。シンは後ろからその様子を覗き込んだ。 「アレックス。ごめん、俺、約束していたよな」 操縦に集中する彼から返事はない。 「それにラクスも・・・俺が盗み出していたからこんなことに」 「シンのせいではありませんわ」 やんわりとラクスは否定したが、現実は厳しかった。 「しかし、王家の証を奪われてしまいました」 ダコスタの言うとおり命は助かったものの、ラクスがクライン王家の王女であると証明するものがなくなってしまった。誰もが事態を重く見て黙り込む中、ラクスが少し考え込んで口を開く。 「王家の証である神授の種石は他にもあります。その在り処はクライン王家にしか伝わらない、いわばもう一つの王家の証・暁の種石」 発進した輸送艇は本当にゆっくりと艦隊を後にする。 まっすぐ空中としに引き返すことが、バルトフェルト侯を巻き込むことになると分かっていたが今はそこに向かう以外なかった。 「では暁の種石を手に入れられれば殿下の身の証が立つと」 「それは・・・グレン王の王墓にあるのです」 大陸を統一し巨大な連邦国家を築き上げた伝説の王、ジョージ・グレン。 彼の死後、子孫達に国家は分けられて今の国家の元となった。月日が経った今でも、覇王ジョージ・グレンの存在は謎に包まれていて、その墓さえ見つかっていない。 その秘境中の秘境へ。 帰り着いた空中都市の飛空挺ターミナルで、ラクスを先頭に進む。 「王墓へは私が案内します」 ラクスはアレックスへ告げたが、反対に彼は足を止めた。苦笑交じりに腕を組んで、ラクスと後ろに控えるダコスタを見た。 「ちょっと待ってくれ。まだ俺は、一緒に行くと言ってないんだが」 戻る 次へ 急展開ですか、そうですか。導入部分がようやく終了です・・・当初の計画からだいぶ遅れております。
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管理人の日記/2007年09月06日/テキーラサンセット #blognavi
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#blognavi ネットめぐりもできないこの忙しさ。 土曜出勤はもちろんの事、日曜もパソコン持ち帰って家でSSL-VPN経由で仕事かよー!。それでも間に合わなさそうな・・・明日が一次締め切りなんだけど。きついなあ。 夜はとてもパソコンを立ち上げる余裕がないから朝っぱらに書き込んでいます。開店休業状態のこのサイトなのに、拍手がったりするからありがたいと言うか、申し訳ない。 10月カットオーバーだから、8月9月を乗り切れば落ち着くんだけどな。これからが正念場だ。今日から受け入れ検証だしな・・・。ど、ど、どーなる? カテゴリ [つれづれ] - trackback- 2006年08月23日 06 55 58 #blognavi
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管理人の日記/2010年02月14日/ニューヨーク #blognavi
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#blognavi 新訳のZの2を観てきました。 ベルトーチカ登場からハマーン様登場まで。 うーん、どのあたりが新訳なのか分かる程、テレビのあらすじとかセリフを見ていなかったから、こんなもんだっけ? って感想が第1です。あらら。 なんか一番印象に残ったのが、特攻をかけるシーンだったのが・・・。ウッダー大佐が艦内放送で「サイコガンダムがアウドムラの足を止められればいいが、それがかなわない時は本艦は特攻を行う。全員退艦せよ」とか言った後。一度はびっくりして振り向いたブリッジ要員がブリッジから姿を消すが、しばらくして5・6人戻ってくる。 「大佐、自分達にも手伝わせてください!」 「大佐だけを一人で逝かせはしません」 「おまえ達・・・すまん!」 と言って、ウッダー大佐が頭を下げるシーン。久しぶりにこういうシーンを見た気がした。後はフォウがマークⅡがブースターで宇宙にあがる時に、落ちていく所。 あれ、こんなシーンあったっけ? なんか、これで死んだっぽいじゃん・・・ キリマンジャロはどうした!? と、一人で話がすごい変わっているのか? とちんぷんかんぷんでした。が、テレビでもいかにもここで死んだように見えたとのこと。 今回はやたらキスシーンが多かったなあ。サブタイトルが恋人達だからなんだろうけど、フォウよりサラの方が目立ってたな。 ブレックス准将が亡くなって、ダカール演説があると思っていたのに、違うんですね。どうでもいいが、なんか、議会でのクワトロの白シャツ姿にすごい違和感を感じた。 テレビと新訳との一番の違いは髪の毛の多さだと思った。だって、動く動く。 カテゴリ [いろいろ感想] - trackback- 2005年11月05日 12 31 48 #blognavi
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大崩壊が起こる前、世界は栄華を極めていた。特に著しかったのが再生医療の分野で、プラントも遺伝子解析から応用へと最先端を走る企業だった。増毛、歯、視力から始まって身体機能の復元にまで至り、人類は禁断の領域へと踏み込む。 すなわち人を超えた種の創造と、いつの時代でもある軍事力への応用である。オーブ財団は前者を、プラントは後者で一歩抜き出て、両者が手を組むことで畏怖と更なる飛躍が期待された。 プラントが月面探査で採集した未知の物体の構造解析から、染色体反応が出たのだ。これを現代科学に応用することで、プラントは世界における地位を各個たるものにしようと画策する。ついにプラントとオーブは、牽制し合って共同研究を始めた。 「私もその時、初めて人工子宮生まれの人類を見たが、確かにどこか違ったよ」 オーブから送り込まれた科学者はまだ二十歳にも満たない青年だったが、プラントの第一線の科学者達を凌駕していた。唯一対等に渡り合えたのは、ほんの一握りだけ。 「最も、そういう刺激があったからこそ、ジーンブレイドは生まれたと言える。研究チームの中心メンバー二人はお互いをライバル視していたしからね」 「ですが、ジーンブレイドは失われてしまった」 「君も知っての通りだ。表向きは事故となっているが」 オーブの科学者とプラント会長の令嬢が恋に落ちてしまったのだ。ジーンブレイドの危険性に気づいた二人は、武器として使われることを恐れジーンブレイドを盗み出して逃亡。 「理想に燃えて夢を語り、世界を憂う。皆、若かったのだろうな・・・うちの研究チームのメンバーまで同調して出て行ったのだから」 「似ているのだよ。ライバルを裏切った・・・彼にね」 5 レイが医療カプセルから出て、ベッドに寝かされているアレックスの様子を伺う。朝になって、意識を取り戻したとコールを受けたのだ。上半身を起こして、ぼんやり考え込んでいる様子を見ると、先程まで意識不明の重態だったとは思えない回復力である。レイに気がついた彼が、顔を上げて開口一番に言った。 「家に連絡しないと!」 「は?」 「この部屋、通信手段が、どうしよう。イズーが心配してるかも・・・」 「ああ、でしたら、これをお使い下さい」 自分の使っている通信端末を彼に差し出すと大慌てで、ボタンを押している。コール音を聞いている時も、端末を持つ手や肩に力が入っている。やっと繋がったのだろう、目に見えて安心している。 「父さん、ちょっと仕事が長引いて遅くなるかも知れないから・・・うん、そう・・・何かあったら、すぐにシンやルナマリアの所に行くんだぞ」 表情ががらりと変わる。 「えっ、壁がさびしいから絵を描いたって?・・・そうか・・・イズーは画家の才能もあるんだな・・・うんうん・・・楽しみにしてるよ」 通話を切って、端末をレイに返す彼はそれはもう嬉しそうにしている。 「貴方は変わった人です。こうして普通に話しているとただの親馬鹿なのに」 「お、親ばかって!?」 アレックスは恥ずかしくなって、慌てて手を振って否定するがそれはかえって逆効果だ。 「ジーンブレイドを発動している貴方は心底破壊を楽しんでいるように見える」 ギャップがありすぎるのだとレイは言う。 否定したい。けれど、否定できない。初めは薄っすらとしたものだったけれど、今ではジーンブレイド化している自分をはっきりと認識できる。昨日の戦いで自分が口走ったことだってしっかりと覚えている。 「ブレイド発動に伴う負担は相当なもののはずです。分かっていないことも多い、今回のようなことも、そうそう助かるものでもありません」 死に掛けたのだと説明された。重症を追い、8時間も意識不明に陥ったのだと。自分と同じジーンブレイドの持ち主とやりあったことも、敵わなかったことも覚えている。 「無理はしないことです」 「負けないさ」 いつだって、そんな事を考えたことがなかった。 いつもどおり、ターゲットのコーディを倒して家に戻る。そこにはイズーは寝ないで待っていて(最近は、遅くなることが多いから、眠っていることが多いけど)いない間にあった出来事を聞かせてくれる。 「貴方だって、自分が利用されていると分かっているはずです。そのデータはフィードバックされ、プラントの研究に利用される」 「そんな事分かってるさ・・・」 こんなことをしているのもイズーの為だ。 「そうですか・・・とにかく、行き過ぎた行動だけは慎んでください。それではコーディと同じですから。それから、もう一つの左のジーンブレイドにはくれぐれも注意してください」 ベッドから起き上がって、待機していたバンに乗り込んだ。アレックスは、遭遇した青いジーンブレイドを持つ男を思い出す。 相手は自分を知っているようだった。無くした記憶に関係あるのか・・・覚えていないことに腹を立てていた。それなら、何か教えてくれればいいのに、お互いぶつかり合ったのだからたいした関係ではないのだろう。彼はジーンブレイドを寄越せと言って、攻撃してきたのだから。 その時の痛みを思い出して、アレックスは右腕に残る痣を見る。相手のブレイドに貫かれた時感じたのは、痛みだけではなかったのだ。 俺は、ジーンブレイドを持ち続けることに、イズーを利用していないか? 俯いたまま考え込む内に、我が家であるアパートメントが見えてきた。 クリーニングが入ってひとさらいされた部屋はどこもかしこもきれいで、今、イザークが睨めっこしている壁も真っ白のままだった。正面にチラシの裏に描いたパステル画を貼り付けて、唸る。 「やっぱり、もうちょっと右」 小さな手でずずず・・・と右へずらし、続けて、片足ずつ右へトトト・・・とずれる。もう、そんな事を2・3回繰り返していた。壁の一番目立つ所の真ん中に貼り付けようと思っているのだが、中々場所が定まらない。 「紙が小さいんだ。もっと大きな絵なら」 そう言って、ダイニングのテーブルの上に目をやる。まだ落書きをしていないチラシが数枚残っている。けれど、どれも大きさは同じ。暫くその紙と壁の絵を交互に見比べる。 「もう一枚描けばいいんだ」 父さんにも画家の才能があると言われたばかりだし。 イザークは冷蔵庫の上の時計を見て時間を確認すると、チラシとパステルを持って1階のレストランへと向かった。 まずは、青で丸を描く。続いて隣に、白色で丸を。 今日の服は水色だから次は水色で、父が昨日着ていた服は何色だっただろう? 「あーお、しーろ、みーずいろー♪ ん?」 「何描いてんだよ?」 シンがやって来てイザークが描いているものを覗き込む。後でプッと笑い声が聞こえたから、チラシの端っこに黒い丸に赤いパステルで豚の鼻を描いた。 「お前、まさかこれが俺だって言うんじゃないだろうな!」 「違う。これ、シンブー」 「何、もう始めてるの?」 「父さんが帰って来る前に完成させないと」 ルナマリアもやって来て、カウンターの中で食器やグラスのセットを始めた。開店準備を一通り終えて、イザークの落書きに混じる頃にはもう昼前。 「もうやめちゃったの?」 テーブルはカウンター近くの端っこに移動して、営業の邪魔にならないようにしているが、その手は殆ど動いていない。 「心配ないわよ! ちゃんと連絡あったんでしょ?」 「んだよ、やっぱりパパが恋しいのか!?」 開店前のレストランでイザークは勉強を見てもらっていたが、どうにも落ち着かなくてルナマリアが宥め、シンがからかう。 「ち、違うぞ。父さんまた何か、しでかしたも知れないし」 描きかけていたパステルが止まる。父さんを驚かせようと思って、隣に貼る絵を描いていたのに。最近事件が多いから、怪我をしたのかも知れないし、遠くまで行ってしまったのかも知れない。レストランのドアがいつ開くかとずっと気にしている自分がいるのだ。 カランとドアが開く音に、思いっきり振り返る。耳の下で切りそろえられた銀髪が広がる。 「貴方が、イザーク・ディノね?」 入ってきたのは、待っている父ではなく、栗色の髪の女性だった。父じゃなくてがっかりしている上に、イザークはその人を知らないのに、向こうは知っているらしい。どことなく面白くなくて、返事はひどくぶっきらぼう。 「はい」 「お父さんはどこ? 大切な話があるのだけど」 「あ・・・っと、この子の父親なら仕事でいないわ」 しかし、女性はつかつかと近寄ってきて、イザークがいる隣のテーブルにまで来て荷物を置く。腰に手を当てて、レストランを見回してもう一度イザークを見た。 「大事なお話なのだけど、連絡取れないかしら。貴方の将来にかかわる話なのよ?」 「将来ってどういう意味だよ」 シンが口をはさむ 「イザーク・ディノ君。貴方は児童福祉省に保護されることになったの。もうこんな所で働かなくていいのよ?」 「働くって! 私はイズーの勉強を見ているだけよ」 「勉強なの?」 テーブルの上に視線が注がれるのを感じて、イザークは手で書きかけの絵を隠す。小さな手で隠れる所は僅かだったけれど。 「まあ上手、でもね、お勉強はお絵かきだけじゃないの?」 「あのなあ、イズーは今更勉強しなくても、十分できるんだよ! ニュースや新聞だって読めるし、掛け算割り算だってばっちりなの! アレックスさんだって帰ってないんだし、さっさと帰れよ!」 「・・・シン」 向きになって反論しているのは日頃よく口げんかをしているシンで、イザークは自分が何を言い出すタイミングを逃してしまった。 自分がどこかに行かなければならない。よくないことが起ころうとしているのが分かってこの女性から何も聞いてはいけない、そんな気がして、早く帰って欲しかった。 「あの」 「イズーは黙ってて! こんなおばさんにそう易々と渡してたまるもんですか」 「おば・・・」 ルナマリアがイザークを抱え込んで睨みつけている。 「仕方ないわ、今日の所は」 女性がテーブルの書類を持ち上げて入り口へと向かった時、ドアが開いた。 「ただいまー」 やっと帰ってくれると思ったのに、なんてタイミングの悪い・・・。父さんはいつもこうだったとがっかりした。 返事がないのを不思議に思ったのだろう、アレックスが顔を上げる。そして、うっと動きを止めた。シンやルナマリアの冷たい視線と、イザークのため息が零れる。そして、フロアに見知らぬ女性がいるのに気がついた。緩やかにカールした髪が肩口にたれ、それは見事なプロポーションの女性が微笑を浮かべて立っている。 「貴方がアレックス・ディノさんかしら?」 「え、あ、はい。そうですが」 「私、児童福祉省のラミアスといいます。貴方にお伝えしなければならないことがあります、少し、お時間いただけるかしら?」 児童福祉省が何の用だといぶかしみ、シンやルナマリアの表情からイザークのことだと思い当たる。 「時間を・・・」 「お手間は取らせないわ」 「は、はい」 「父さん!」 イザークが心配そうに、ルナマリアの腕を抜け出して足に抱きつく。何、ちょっと話を聞くだけだと、しゃがんで頭を撫でる。子供のイザークではまだ、アレックスの背中に手は回らなくて、服をぎゅっと握るのが精一杯だった。 「こうして見ると、まるで本当の親子のようね」 アレックスは耳を疑った。 「残念だわ、親子じゃないなんて・・・」 アレックスもイザークも声のした方、女性を見上げる。彼女は柔らかく微笑んでいたけれど、そのルージュの口びるから放たれる言葉はとても残酷なものだった。 「いずれ分かる話だからここで言うわね。あなた達親子の間に血縁関係がない事が判明したの。ですから、アレックス・ディノさん。貴方のイザーク君に対する親権は消滅したのよ」 「何を・・・」 言い出すんだ? アレックスは呆然とする。イザークを抱きしめる手に力が入り、何から尋ねたらいいのか分からない。何かとてつもないことを言われている。俺とイザークがなんだって? 親子じゃない? 「突然のことで驚かれたでしょうけど、政府は子供を保護する義務があるの」 「ちょっと待ってください!」 この女性は俺からイザークを取り上げようとしている。 俺とイザークが親子じゃないと言って、俺が育てる権利がないと言う。 「親子じゃないってどう言う事ですかっ!?」 返事の替わりに差し出されたのは、DNA鑑定証明書。引ったくって、文面を追う。書いてある事の科学的な意味はわからなくても、文字が親子であることを否定している。初めからそう書くことが決まりであるかのように、流れるように導かれる答えに薄っぺらい紙が歪むほどに力が入る。 「勿論、家族がいる場合はその方の意見が尊重されるわ、けれど、ただの保護者ではね」 「どうして、今頃になって・・・」 俺の記憶がないからか? イザークを一人にしておいたから、それとも、本当は俺が―――。 「とにかく、大事な初等教育の時期に間に合ってよかったわ。まずこちらの書類にサインお願いします」 バッグから取り出された書類と万年筆。 許諾書にサインしたら、俺はイザークと一緒にいられなくなる? 「できるわけがない」 「そうね、急ですものね。明日まで待ちましょうか。けれど、イザーク君の保護義務はもう政府にあるの、今日は私と一緒に行くことになるわ」 「そんな・・・」 「・・・いやだ」 ぎゅっとしがみついて、顔を埋めるイザーク。ラミアスが殊更優しい声で、イザークに話しかけた。施設にいっぱいいるお友達のこと、色々なことが勉強できること、そして。 「別にもう二度と会えなくなるわけじゃないのよ?」 頭をふるイザークを見て、彼女はさびしそうな顔をするがすぐに表情を切り替えてアレックスを見た。 「よく考えてくださいね、何がイザーク君にとって一番いいのか。曲がりなりにも6年間親をやったのなら、分かるはずでしょう?」 「言われなくたって」 考えている。誰よりもイザークの事を考え、心配していると言えればよかった。 しかし、今のアレックスにはジーンブレイドを発動して破壊を楽しむと言う、もう一人の自分がいた。不安が伝わったのか、自分の気持ちに素直になったのはイザークの方だった。 「父さんと一緒がいい」 女性の方を見もせずに、頑なに拒んでいる。嫌だ嫌だと繰り返せば、見逃してもらえるかのように、アレックスに抱きついて自分を隠そうとしている。 「行かないからな。行かないったら・・・行かない」 「イザーク君、行きたくないってあまり抵抗すると、お父さんが誘拐罪で捕まっちゃうのよ?」 ビクッとして顔を上げる。 アレックスを見上げて、口をへの字に曲げる。真っ青な瞳が潤んでいて、アレックスは自分の方が泣きそうになった。自分は罪でも何でも構わないから離したくないのに、罪になると聞いて、イザークがそれを気にしないはずがない。 「イズー・・・」 そろそろと手を離して、俯いたイザークは唇を噛んでいた。 「そんなの卑怯だわ」 ルナマリアの呟きすら気にせずに、ラミアスがイザークに手を差し出した。一向に握らないイザークに諦めたのか、肩に手を置いて出発を促した。レストランの入り口のドアが閉まり、その揺れさえ消えうせてもアレックスは動けなかった。 チラシの裏に描かれていたのは青い頭の大きな人と白い頭の小さな人らしきもの。端にはシンやルナマリアを描いたのだと思われる丸が描いてあった。描きかけの絵を見つけて手に取って、エレベーターホールに向かう。シンやルナマリアが何も言わないのが今はありがたかった。 部屋の鍵を開けて、ダイニングのテーブルの上に荷物を置くと、フッと目に入る位置に絵が張ってあった。 「ちょっと傾いてるぞ、イズー」 電話で話していた自信作だろう。 「これでいいんだ」 化け物の親を持つより、福祉施設で引き取ってもらった方がイザークの為だ。そこは安全だし、教育も受けられる。友達だってできるだろう。 今しがた描いていた絵も隣に飾ろうと思って壁に当てる。膝をついて向き合い、手を乗せるともう視界がぼやけてきた。腕の力が抜けて頭が壁に当たる。イザークは泣かなかったのに、守られた父親は情けなさにポタリと床に涙が落ちた。 イザークはオーブ財団と政府が共同で建設した、児童福祉施設の一室にいた。来る途中、大勢の子供達の騒ぎ声が聞こえて、張り詰めた意識が少しだけほぐれる。少なくともここには、大勢の子供がいる。とは言っても、とりあえず案内された部屋で、借りてきた猫のようにジッとしているだけだが。 「その子が例の子供ですのね?」 「ええ。まだちょっと緊張して大人しいけれど、本当は元気な子よ」 一人ぽつんと座っている少年をこっそりモニタ上から覗く女性が1人。イザークをここに連れてきたラミアスが画面上で長いピンク色の髪が印象的な女性と会話を交わす。 「まあ、銀髪ですのね、こんなきれいな髪を見たのは久しぶ、り・・・」 画面の中で頭を動かした少年の横顔が映る。サラサラの銀髪がゆれ、瞬きした向こうにあるのは、吸い込まれそうなそれはそれは青い瞳。言葉を切ってしまったマザーを前にして、ラミアスが続きを促すが、反応がないのを見て話題を変える。 「そう言えば、諜報部から良くない噂を聞きました。プラントがコーディ対策ワクチンを開発したと」 「その件なら今詳しい情報を収集ですの。怖いのは、救済と称して臨床試験を強制することです。大崩壊の影響で私達は皆、コーディ化する因子を持っています」 「ワクチンはそれを防ぎ無効化するものだと」 「私達はその真偽を確かめねばなりません」 収まらないコーディ化現象と増え続ける犯罪。 そこへ、もう一つのジーンブレイドの出現による混乱が起こっている。ラミアスは一気に暗くなってしまった会話を元に戻して、イザークのことに再び触れた。いつまでも財団のカリスマ、マザーと話しているわけにもいかない。 「簡単な検査をして、大部屋に移すわ」 「そうしてくださいな。一人は寂しいですから」 暫くしてラミアスが戻り部屋から出る。身長、体重を測って、イザークが次につれられたのは沢山の子供達が集う、レクリエーションルームを見下ろせる部屋だった。イザークよりも大きな子も小さな子もいる。男の子も女の子もいて一緒に遊んだりしている。 「これからお友達になるみんなよ。今日は、お姉さんと一緒の部屋だけど、明日からは皆と一緒だから安心して」 何をするでもなく一日が過ぎ、ラミアスが部屋に戻ると呆れてベッドに腰掛ける。 「テレビくらい見ていてもいいのよ? それとも遣い方が分からなかった?」 「知ってるよ」 馬鹿にするなと言いたかったけれど、相手は女性だから黙っておいた。帰ってきたのだから、もういいだろうと思って、布団を捲る。 「おやすみなさい」 「え、ええ。おやすみなさい」 潜り込んで丸くなる。隣のベッドでため息をついている彼女に気がついたけれど、気がつかないふりをした。こんなのは夢で、目が覚めたら父さんが隣でグースカ寝ているんだと言い聞かせて目を閉じる。 その日の夢は、いつものように戦い続ける夢ではなかった。 ビルも人も、何もない真っ白な世界。 一つだけ光ったのは、流れ落ちる涙だった。 誰か、泣いてる? 次に目に入ったのは血だらけの手。ずいっと伸ばされた手がもう少しで触れると言う時、ふわふわと透き通っていく。それもつかの間、白い世界を瞬時に埋め尽くす闇の中で光る青いブレードと紫の瞳。辛うじて残った残像で思い当たる人と言えば、いつも夢の中で向き合うアイツしかしない。 アイツは敵じゃないか。 おかしいよ。どうしてこんなに、安心しているんだろう。 戻る 次へ * ザ☆急展開。すいません、毎度のお約束な展開で。バレバレな事を、何!昔そんな事が!? ッて感じで書くのってなんだか恥ずかしいですね。